梟谷視点



※しきしまの本編 35話。


吐き出す息もだんだんと白くなってくるこの季節。練習の厳しさは日に日に増している。楽しいが、疲れを感じるのもまた事実だ。しかしこの時期一番疲れを感じる原因は練習ではなく精神的なものが一番大きい。そう、俺らの事情を考えもしないで、世の中のカップルたちはイチャコラとまるで自分たちしか世界に存在してないみたいな顔で街中に溢れかえりやがる。


「なまえさんはクリスマスどうするんですか」


聞きたくても誰も聞かなかったことを、俺の目の前に座る赤葦は簡単に聞いてみせた。


「友達とクリスマス期間限定のカフェに行こうって話してた」

「またまたー。友達とか言って隠さなくっても良いって」

「そうだよ、相手孤爪だろ?」

「ううん、孤爪くんじゃなくて、いつも一緒に遊んでる友達!」


ケロッとした顔で、当たり前だというようにそう言ったなまえちゃんに俺たちは一斉に注目する。見てみてこれ可愛くない?なんて検索した店内の画面を見せてくる彼女の様子は至って普通だ。

黙り込んでいれば「木葉さん聞いてみてくださいよ」とでも言うかのような視線を赤葦が投げかけてきた。俺かよ!お前が最初に聞いたんだから責任持ってお前が聞けよという視線を返そうと思ったら、赤葦はもうすでに飯の方へと目を向けていてこっちを一切向こうとしなかった。なら仕方がないとこういう時には頼りになる馬鹿が発言するのを待とうと木兎の方を確認したが、そいつはおかわりを持ってきたおばちゃんと仲良く話し出してしまってなかなかこっちに戻ってこない。結局俺が聞くのかよ。


「……………なまえちゃん、てさ、」

「はい?」

「孤爪研磨さんとはお別れしたんですか」


思わず敬語になったんですけど。孤爪研磨さんとか呼んじゃったし。お前ついに言ったなという目で小見たちが俺のことを見てくる。お前らも自分以外のやつが動くの密かに待ってたの気づいてっからな。

パチパチと今日もしっかりした抜かりのないメイクで飾られた華やかな目を瞬かせながら、なまえちゃんは「へ?」と少し抜けた声を出す。クリスマス友達と過ごすんでしょ?といつの間にか戻ってきていた木兎がさらに突っ込んだ聞き方をすると、彼女は「えー!!」と大きな大きな声を上げた。


「だからってなんで別れるんですか!!あり得ません!!ラッブラブだし!!」

「ラッブラブ」

「繰り返すな赤葦」

「孤爪くんから何も聞いてないんですか!?」

「別にそんな頻繁に連絡取るような仲ではないしなぁ」


ぷんぷんと怒りをあらわにした彼女は最近あった出来事を勢いよく教えてくれる。でもそのほとんどは聞き流させてもらった。他の奴らの幸せな惚気は聞くに堪えない。この時期は特に。しかもバレー部のやつときた。俺だって彼女欲しい。


「じゃあ孤爪とは日にち変えてなんかすんの?」

「うーん、今のところは何も。孤爪くん忙しいし、春高までは学校以外では会わないんじゃないかなぁ」


練習大変でしょ?みんなもクリスマスだからって遊んでる暇なんてきっとないよね。と言った彼女は少し寂しそうに笑ってみせた。

練習は確かに大変だ。だからって彼女がいたらクリスマスは何をしようかという思考に俺はなる。俺はね。まぁそもそも彼女いないんだけど。もし練習が忙しすぎて当日は無理だったとしてもオフは確実にあるし、年越しとか、そういうときは絶対部活ないわけじゃん。絶対そこは春高まで一度も会わないなんて言わずに彼女と過ごすね俺なら。まぁそもそも彼女いないんだけど。


「孤爪ってそんなにストイックなやつだっけ?」


小声でそう聞いてみれば、赤葦は思考を巡らせた後なまえちゃんの方を向き口を開いた。


「もしかして、それ孤爪には相談せずに自分で決めた?」


パチパチともう一度先程と同じように瞬きを繰り返した彼女はコクリと小さく頷いた。俺たちに様子を見守られながら不安げに瞳が揺れる。大人しくなったギャル、知り合いの彼女に対して思って良いのかはわからないけどこれはなかなか良い。まぁ知り合いの彼女だからそれ以上の感情は生まれないけど。俺良い奴。なんか悔しい。


「この先大変そうだね。頑張れ」

「……?わかった」

「すげー棒読みになったぞ赤葦」

「そんなことないですよ」


俺たちの会話に首を傾げるなまえちゃんは、来週あたりちゃんと孤爪くんとも話してみようかなぁと思ってるよなんて言って、綺麗にネイルの施された指先を遊ぶように動かした。


「あ、そういえば梟谷も全国出場おめでとうございます!」

「遅っ」


今更かよなんて笑いながらも、こうして他校の、しかも彼氏と対戦して勝ったチームの俺たちに何の曇りもない笑顔を向けてくれるのは嬉しい。ありがとなーなんて言いながらわいわいとし出す他の奴らとなまえちゃんを横目に、モグモグと口を動かし続けている赤葦がまたじっと視線を投げかけてきた。


「……なんだよ」

「どうなると思います?なまえさんと孤爪」

「どうなるって……」

「俺は今心底関わらずに済む立ち位置でいて良かったと思ってます」


そう言ってご馳走様でしたと手を合わせた赤葦の言いたいことはよくわかる。俺だってそう思う。孤爪となまえちゃんが普段どんな感じなのか知らないけど、想像だけで俺にはちょっと手に負えない気がした。


「クリスマスかー」


大変そうではあるけど、こういうイベント事で一喜一憂したりゴタゴタすんのもまたカップルの醍醐味でもある。なんにしても、俺には今の所縁の無い出来事なことだけは確かだ。悔しい。俺も来年は彼女とどこで過ごすかとか考えながらこの時期を過ごしたい。


「春高応援行きますからね!!」

「それ孤爪のついでだろ」

「そんなこと言わないでくださいよ!あっ木葉さんの名前書いたうちわとかいる!?」

「いらないかな。でも声援は欲しいです」


あーあ、俺も早く彼女欲しい。




- ナノ -