04
面白くない。すべての授業を終えた放課後。サムの教室に集まってしのぶに勉強を見てもらう。ただでさえバレーができないというこの期間も、嫌いな勉強も、よくわからないテストも嫌なのに、目の前で展開させられる2人の空気感に絶えきれんくなってきてもう4日目。
「今日もめっちゃうまい、最高や」
「治くんのその顔見たらついつい握ってきちゃうんだよね」
なんてことない会話やと思う。けれども2人の纏う空気と締まりのない顔を見ていれば、そういうことなんかと思わざるを得ない。
しのぶは去年俺と同じクラスでこうやって勉強を見てもらったこともあったし、クラスの女子の中でも特に仲の良い女やった。ふざけた会話もたくさんしたし、口喧嘩もしたし、俺がたまにする意地悪にムッと口を尖らすしのぶをさらにからかって笑い合って、なんやかんやでしのぶにとってもこの学校で一番仲が良え男子は俺やと思っとった。
「治くん、ここ間違ってる」
「まじか」
「これは引っかかりやすいんだよね。ここをよく読むとわかるんだけど、この公式じゃなくてこっちの公式を当てはめて見て」
「見事に引っ掛かったわ、ありがとう」
「………え、あ、うん」
「………なんやめっちゃ近づいとったわ、すまん」
「いやいや、大丈夫!ここじゃないと教科書見えなかったから、ごめん」
俺が一番近かったはずなのに、気づいたらサムがしのぶと仲良くなっとって、ついこの間まで俺の場所やった隣に座って、俺には出せない空気感を出している。
面白くない。
「………………なんなんお前ら」
「?」
「なんや?」
「無自覚か?タチ悪いわほんまに」
タチが悪い。本当に。好きになったんか。よりにもよってサムを。俺にはそんな反応も態度も一度もしなかったのに。
「俺もここわからんから教えてや」
「どれ…あ〜これ私も最初わからなかったの。これはこの公式で解いてみて」
「……………………おう」
「どうかした?」
「いや…サムと同じくらい近づいとんのに、俺には照れないん?」
「…………へ?」
そう言うとやっと自覚をしたのか、バッと勢いよく離れていくしのぶ。こちらから言わないと完全に意識外か。
腹の底に溜まるイライラをどうにかして押し込みながらサムのほうを見ると、先ほどしのぶに教えてもらった数式を解くのに必死でこちらなど見ていない。見とけや。気にならないんか。それにもさらにイラッとして、ハァと重いため息を吐いた。
「テスト嫌やな」
「赤点とったら合宿危ないんでしょ?頑張ろ。あと土日だけだよ」
「そうなんやけど、はぁ〜」
「なんやツムうっさいな、こっちまでやる気なくすわ」
うるさい。黙っとれ。俺は勉強やなくてもはや学校生活全てのモチベーションが1から10まで全部下がっとるわ。部活以外。
「土日は色出さんのおにぎりないから勉強する気起きひんな」
「月曜日また持ってきてあげるから、頑張って?」
「ほんま!?あ〜それだけで100点取れそうや」
目の前で繰り広げられるなんとも言えない空気感の、なんとも言えない会話に耐える。元々俺は恋愛よりバレーボールや。好きなやつが出来たとて、バレーを超えられる存在にはなるはずがない。せやから、俺の高校の青春は恋愛やなくてバレーボールで十分や。そう思うほかやってられん。
まぁ、俺も、男子高校生なので本音を正直に言えば恋愛の青春もしたかった。どう頑張っても性欲は溜まるしな。中学の時はテキトーな女ひっかけとったけど、高校に入ってからはこいつやと思う女見つけて頑張ろうと思っとったのにな。
「お前らまじ俺の前から消えろや」
「はぁ?ツムが消えればええやろ」
「…………それもそうやな」
「なんやしおらしくてキショいな」
「どうとでも言えや、俺は今ショーシンチューや」
「傷心中?」
「絶対絶対俺はサムよりもバレー強なる、絶対や」
「いきなりなんの話やねん」
「もうなんでもええやろ!勉強せぇや!」
「自分から言い出したんに何やねん」
こんな時癒してくれるようなエロくて美人な女が欲しい。サムよりバレー強くなるために、絶対ユース選ばれたる。そのためには嫌やけど今は勉強するしかない。
あーあ、俺の方が先に好きやったのにな。