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「彼氏がさ、最近ちょっと素っ気無いんよね」

「倦怠期?」

「そうかも。つら〜」


女子が集まれば、始まるのは必然的に恋バナと決まっている。各校のマネージャーの集まるこの部屋も、寝る前のこの時間に出る話題は例に漏れず恋愛の話だ。


「稲荷崎は部員みんなかっこええやん。面白い話の一つや二つなんかないん?」

「ええ〜そんなん言われても」

「こちらは特に…」


すえ先輩と2人でたじたじになる。何というか、この場に集まっている人たちはみんな積極的というか肉食的というか。

京都のマネさんはバレー部ではないけれど同学年に彼氏がいるらしく、大阪のマネさんは主将と付き合っている。奈良のマネさんは片思い中だけれど先日初デートに成功したらしい。みんな、すごいなぁ。


「ほら、すごいやん双子とかさぁ。関西のバレー界隈でも話題やし、実際どうなん?」

「双子は校内でも人気やねぇ」

「やっぱ?」

「見た目もプレーも目立つからなぁ」


実際にあんな見た目もバレーもかっこよかったら一回くらい好きにならへん?との発言に、周りもせやな、なー、と頷いていく。


「すえちゃん後輩とかどうよ?」

「えぇ、私は双子は別に…」

「双子"は"?ってことは他に好きな人おんの?」

「えー!誰、誰!」


大変だ。すえ先輩が捕われてしまった。助けたいけれど、ちょっと自分でも気になるので助け舟は出さない。あと変に助けに入ると私に話が回ってきそうでちょっと怖い。

質問攻めにされているすえ先輩と、楽しそうな他のマネージャーさんたちをしばらく眺めていると、折れたというよりもボロを出したすえ先輩が負けたらしく決着がついたようだ。


「あの人怖ない?」

「怖くはないんよ、そりゃちゃんとしてなきゃ注意されるけど、しっかりやってること見てくれとるし、認めてくれてるし、ちゃんとしてれば優しい」

「ベタ惚れやん〜」

「すえ先輩、北先輩のこと好きだったんですか…」


衝撃の事実を入手だ。たしかに2人は仲が良いなぁと思ってはいたけれど、ちょっとびっくり。


「しのぶちゃんやって治くんとええ感じやん!」

「え、双子!?どんなんどんなん?」

「え!?別に、何もありません!」

「でも、この前だって〜」


ペラペラと、今まであった治くんとのことについて話し出すすえ先輩。自分をターゲットから外したいからって!と焦る私とは反対にニヤニヤといやらしい笑みを深めていく他のマネージャーさん達とすえ先輩。

面白いものを見つけたとでも言うようなその表情に、私はというと縮こまるしかない。


「ね、ね!好きなん?」

「好きじゃ、ないです」

「えー!そいえば、しのぶちゃんうちの梅田にちょっかい出されてへんかった?」

「梅田くんは、普通に友達になってくれて」

「絶対しのぶちゃんとこと狙っとるってアイツは!」

「最後の治くんの一発、怖かったしねぇ。あれ終わった後治くんと何か話してたやん。何言われてたん?」


すえ先輩までニヤニヤとこちらを覗きながら問いかけてくる。どうやらここには味方は1人もいないようだ。

あの後、2人で。あの時は会話というよりも一方的に言われてしまって、驚いてその場に突っ立っていた私は治くんを追いかけることは出来なくて。でも集合はかかっているからと回らない頭の中みんなの方へと向かった。

あの後から治くんとは今日は目を合わせていない。


「俺のほうが強いだろって」

「俺のほうが?」

「試合始まる前に、梅田くんが強いところ見ててって」

「なるほど?」

「それで、よそ見するなって」


そう言った途端に目を輝かせるみんな。私はといえばあの時の言葉を思い出して少し恥ずかしくなる。


「よそ見って、なに…」


ぐるぐると相変わらず定まらない思考回路にこちらはパンク寸前だ。恥ずかしい、けど、なんとなくポカポカするような。そんなよくわからない気持ち。


「しのぶちゃんは治くんが好きなんやない?」

「だから!好きではないんです!」

「じゃあなんて思っとる?」

「治くんは、男子の中でも特に仲が良くて、私にもよくしてくれて、たまによくわからない行動とかしてくるからドキドキしたり緊張したりするけど、でも私が男の子と接するのに慣れてないからで」

「うんうん」

「…でも、治くんが幸せそうにご飯食べてるのを見るのは好き」


どんな場所でも、どんな物でも、何かを食べている時の治くんは心の底から幸せそうで、優しい顔をしている。その顔はずっと見ていたいと思う。


「治くんのことさ、もしかしたれ好きかもしれんって思って接してみたら?」

「好きかも?」

「そう、もし本当に好きじゃなかったら、違和感であぁ違うなってなるやん。好きやったら、違和感とか感じないんやない」


好き、とか、嫌いとか。友情とか恋愛とか、経験値のない私にはだいぶ判断が難しい。でも、この方法ならちょっといけるかもしれないって思った。別に好きの有無をハッキリしたいとは思わないし、ハッキリさせてどうこうとかもよくわからないけれど、この連日もやもやしてギュッと苦しくて、でも暖かい不思議な気持ちの答えを見つけ出せるのなら、試してみる価値はあるのかもしれない。


「そろそろ寝よか」


明日からの気持ちの予測が自分でもわからなくて、少しだけドキドキした。




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