たまーにゃ長電話してこいよ

「研磨ー。今日は昼休みどうすんの」

「……どうもしない」

「でもひそか休みじゃん?」

「だからって、普段から昼休みは別だし」

「でも今日は私たちと食べるんだもんねー」

「……え」

「もう虎たちには許可取ってきたから!!あ、逃げんな!!囲め囲めっ!」


おれが立ち上がろうとするよりも早く三人に押さえつけられた。なんでこんなことになってんの。なんで。魂が抜けたような感覚になる。

空いている館さんの机をおれのに合わせて周りを囲んだ三人は、「これあげる〜」「私のもあげよう」「友達だかんなー」と適当なことを言いながらおれのところにおかずをポンポンと置いていった。申し訳ないけどおれは自分の弁当で足りないなんて思うほど食欲旺盛ではないし、そんなもので釣られるほど飢えてもない。


「研磨は最近ひそかとどんな感じー?」

「べつに、ふつう」

「普通ってなにさ普通って」

「私らにわかるようにしゃべって」

「…………」

「黙った」


なにを言ってもなにをしてもワイワイと盛り上がる。今の流れのなにがそんなに面白いんだろう。それがおれにわかるようにそっちも喋ってほしい。


「じゃあもう切り込んじゃうけど、研磨はクリスマスほんとにこのまま一緒に過ごさなくてもいいと思ってるわけ?」

「最近のひそかなんか変じゃん!」


ずいっと顔を覗き込まれ思わず身を引いた。避けんなと言われたけど距離が近いからそんなの無理。馴れ馴れしいのも騒がしいのも目立つのもよくわからないのも全部やだ。いつもより早いペースで食べ終わって、彼女たちの質問にはなにも答えず逃げるように席を立とうとしたらまた無理矢理押さえ込まれる。


「捕まえとこ」

「やめて」


何度言っても聞かないけど、おれが座れば離してくれる。諦めてもう一度腰を下ろすと、さっきの質問はまだ終わってはいなかったようで再度同じことを聞かれた。


「館さんがいいって言うならそれでいいんじゃない」

「いいって言われた?」

「…………」

「答えて研磨〜」

「……なにも言われてないけど」

「そう!!それが問題だよな」


ビシッと指をさされ勝手に話を進められる。もうこうなってしまったら最後までつきあわない限り永遠に解放されないんだということが経験上わかる。気づかれないように小さくため息を吐いた。


「ひそかは研磨のこと考えすぎて逆になーんにも考えられない空回りしてっから、流石になんか研磨が可哀想だよなーって」

「二人で話し合って会わないんならいいしさ、別にその日じゃなきゃ!みたいなのはないけど、このまま曖昧にいったら絶対どっかでまたこじれるって」

「そうなったらウチらが厄介なのよ、わかるでしょ研磨」

「すごいわかるけど」

「研磨が動かないとひそかはなにも分かんないと思うから、なんか頑張れ」

「なんか頑張れってなに」

「それは自分で考えてよ〜」


おれじゃなくて三人が言ってあげればいいじゃん。なんか最後投げやりだし。そう言うと私らじゃだめなんだってーと三人が一斉に頭を抱えた。

風邪を引いて休みだという館さんから、今朝メッセージが届いていた。昨日一緒にいたから、移してないか心配だって言う内容。おれじゃなくてもっと自分の心配をすればいいのに。幸い軽いもので熱もそこまで高くはなく、すぐに復帰できそうとのことだけど、でも風邪は風邪だし、辛くはないってことはないと思う。

そもそも久しぶりに来たメッセージがこの話題なことになんだかおれはまた朝からもやもやした。そろそろ霧が濃くなりすぎてどうにかなりそうだ。


「騒がなくても一人静かに暴走してるあの厄介者を止められるのはやっぱ研磨しかいないって」

「そーそー」

「その言い方なんかヒーローみたい」

「研磨的には勇者とかの方がいいんじゃない」

「お、そっか。頑張れ勇者ー!」

「頑張れー」

「……大きい声でそう言うこというのやめて」


馬鹿にされているのか頼りにされているのかが全くわからない。彼女たちはどこからか取りだしたお菓子の袋を開ける。それを「勇者には一番にあげなきゃな」なんて言われて無理矢理押し付けられた。

やっぱ馬鹿にしてるでしょ。そんな視線を向けるとまた何がおかしいのかわからないけど楽しそうに笑い出す。だから、おれにもどこがそんなに面白いのか教えてほしい。でもこの人たちは生きてるだけで、呼吸をしているだけで楽しいなんて言い出しそうな気もする。やっぱりおれには陽キャの考えを理解しようなんて想像だけでも無理だった。

鳴り響いたチャイムが救済の鐘の音に聞こえる。もう終わりかよーと離れていく三人には申し訳ないけど助かったとほっと息を吐いた。

悪い人たちでは決してないけど、やっぱりどんなに絡まれようが、たとえ彼女が陽キャに分類される人種であろうが、おれ自身は教室の端っこで一人で過ごす方が性に合ってる。

さっきもらった一粒のチョコレート。この前館さんがくれたやつと同じ種類の違う味。この時期限定で発売されるそれの味を舌の上で楽しみながら、更新されない館さんとのトーク画面をこっそりと確認した。

十二月十四日。あと十日でクリスマスイヴだ。


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