「ひそかさーん!!」
「げ、リエーフくんだ」
「げってなんスか!酷くないですか!?」
「だってリエーフくんにここで会うとたかられるんだもん」
「えー。そんなことしないっすよ」
ブーブーと口を尖らせた彼は大きな大きな体を曲げて隣にいる犬岡くんと芝山くんに泣きつき始める。
なぜかいつもこの自販機前で遭遇するこの子達は、今日はもう目的の飲み物を買い終えた後なのかそれぞれ手元にペットボトルを握りしめていた。
「そういえば最近練習見に来ないっすよね」
「全国大会前の大事な期間だし、邪魔しちゃ悪いじゃん」
なるほど!と、そう言ったリエーフくんはブルっと体を震わせ、寒いと自分の体を抱くように長い腕を回した。横の二人も、平気そうな顔をしているもやはり冷えるものは冷えるのかホットのペットボトルをしっかりと両手で握りしめている。
「ごめんこんなところで立ち話なんて!中入って早く!」
三人の背中を押すようにして急いで校舎の中に入った。いきなりの私の行動にワッと驚きながらもしっかりと従って足を進めた三人に、「今の時期に風邪ひいたらほんとにやばいから!」と焦った声を出すと、はははと笑った三人は「そんなに柔じゃないですよ」と顔を見合わせた。
「冬の風邪をなめてはいけない!」
「でも確かに気をつけないとですよね」
「そうだよ!自分が思ってる以上にちゃんと気をつけないとだめだよ!人混みとかもなるべく避けるんだよ!」
「親みてぇ」
ケラケラと笑う三人に笑うなー!と声を上げるとさらに笑われてしまう。外よりはマシになったけれど、風がないだけで廊下も温度はそんなに変わらない。「早く教室戻りな!」と三人の背中をもう一度押したとき、ジッとこっちを見ていたリエーフくんが口を開こうとした。あ、また何か嫌な予感がする!!
「なにリエーフくん、余計なことなら言わないでいいよ!」
「ひでぇ!まだ何も言ってないじゃないすか!」
「日頃の行いでしょ」
「だって〜。人混みもだめって言うからひそかさんは研磨さんとクリスマスどうするのかなーって考えてたら止まんなくなっちゃって」
その言葉にキョトンとした顔でリエーフくんを見上げる。イルミネーションとか行かねぇんスか?さすがに練習も夕方終わりの日もあるっしょ。なんて言って純粋な瞳で私のことを見てくる。その真っ直ぐな視線がなぜか痛かった。
そうだ、クリスマス。なにをするだとかしたいだとか、そんなことは考えたことなかった。てか十二月の二十五日なんてもう春高の直前じゃん。当日は当たり前のように孤爪くんと過ごすものだと思ってたけど、そんな大事な時期に無理はさせられない。孤爪くんはクリスマスのことについてはなにも言ってこないし、もしかしたらゆっくり休みたいと思ってるかも。というかむしろ私のことはいいからしっかり休んでほしい。
もうクリスマス当日まで一ヶ月をとうに切っている。どうするんですか?と聞いてくるリエーフくんには、「わからない」とだけ言っておいた。
――――――――――――――――――
時間が経ってしなしなになったポテトを少しずつ食べ進める。いつも通りのメンバーで集まる放課後。一本ちょーだいと言って私が返事をする前に素早く取っていったなおピに、私にも一口それちょーだいと言って、なおピの腕ごと掴んで引き寄せたバーガーにかじりついた。
「なにカップルみたいなことしてんの二人とも」
「ひそかもようやくそういう動作が身についてきたか〜」
「恥ずかしくて孤爪くんにはやったことないけどね!」
「やれよ。なんで私には出来んの」
「恥ずかしくないから」
期間限定のバーガーの味を堪能しながら、おいし〜と頬に手を添える。ジトっとした目で私を見たなっちが「研磨にもやってみなよ。喜ばれるかもよ」なんて言ってくるから喜ばれはしないと思うけどと返すと、吹き出すようになおピが笑った。
「そういえばひそかはクリスマスどうすんの〜」
「この前リエーフくんにも聞かれたなぁ」
「私は彼氏とホテルのディナー予約する。プレゼントはもう欲しいもの伝えたし」
「……なっちのそれは本当に彼氏?」
「聞くなよ。その日はちゃんと彼氏なの」
「そんな彼氏やだ〜。私はちゃんとした彼氏と旅行行く。なおは?」
「予定ないですけど!!」
「え、じゃあ今バズってるクリスマス限定のこれ!行こうよ!」
ウキウキと画面を見せる。お、私もここ行きたいと思ってたーと言いながら、なおピが私の頭をバシンと叩いた。痛い。地味に痛い。
「なんで叩くの!」
「あんた研磨とクリスマス一緒に過ごさないの!?」
「孤爪くん春高前だよ!」
そんな私に構ってる暇なんてないよ。そう言うと、研磨がそう言ったならいいけど。となっち達はズズっと音を立てシェイクを最後まで飲み干した。
孤爪くんにはまだどうするか聞いてないけど、もうあと三週間もしないうちにクリスマスが来る。春高までもあと一ヶ月だ。夢の東京体育館。そこに立つ孤爪くんが見れるのが今は何よりの楽しみだと思う。
はやる気持ちを抑えながら、春高の会場ではなにを買おうかなんて想像して、まだ見ぬ大きな舞台に立つ孤爪くんに想いを馳せた。
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