きみをころす夜

「いいよ」

そうやって繋がれた偽りの愛。夜の話。僕は瑛太に抱かれながらきみをころした。



名前を呼びたいのは数斗。でも、数斗はきっと僕の劣情を知ってしまったら盛大に嫌悪することだろう。きっと、いや絶対僕のことを拒み、もう幼馴染として接することは無理だろう。

だから。

「気持ち悪いと思うかもしんねーけどさ、国光。俺さ、お前のこと好きなんだよな」

「そうなの?…それで。僕はどうすればいい?」

「は、引かねえの…?あーや、その、……付き合ってくれるか」

「……いいよー?瑛太だしね!」

そうやって自分を殺して、瑛太と付き合い始めた。瑛太とは元々仲良かったし、ただ恋人的ふれあいが増えるだけで、日常から大きく外れるようなことはなかった。

抱かれたいと言われて、どうして僕はいいと言ったのか。もう、数斗に愛されることを諦めてたのかな。

多分瑛太は、僕の不安定な心を知ってたんだと思う。

『怖けりゃ目ぇ閉じて、別のこと考えとけ』

そうはしなかったけど、ハジメテをあげるなら数斗がよかったな、なんてことは考えてた。名前を呼ぶのは瑛太だけど、頭の中ではずっとずっと、数斗の顔がちらついていた。

抱かれてしまえば、なんだかもう吹っ切れた気がしたんだ。僕の中で大好きだった数斗を××して、そしてその顔を瑛太に塗り替える。

塗り替えただけだから、いつかペンキが剥がれそうで怖い。

塗り替えただけだから、ちょっと濡れたら全部が見えてしまいそう。

いっそのこと、削り取って、ぶっ壊して、それでぽいと捨ててしまえればよかったのに。

ぐるぐると回る世界で、背徳の二文字が腕に絡んだ。



あっ、数斗だ。

「数斗ー。数学教えてくれよー。ミスター数学くん!」

「数斗くんっ!僕にも教えて!今日のやつ全然わかんない…」

「はぁ?またお前ら文系組…いいよ、まったく。おら教科書持ってこっち来い。そこじゃ狭いだろ黒板使うぜ」

「おーおーいつもサンキュ!行こうぜ国光」

するり、手が握られる。僕は笑顔を向けてひとつ、頷いた。

「うん。瑛太」



あの夜を境に、僕の中のきみは、そういう意味で消されてしまったのだ。


さよなら、僕の大好きだったはずの、数斗くん。


――――
表記が複雑だ。

どうしよう
ピュアな国光
消え去った(五七五)


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