メロメロディ



「もー。兄弟、上の音うまくハモってないよ?」

「すまない兄弟。わたしとしたことが」

「だいじょーぶ!ぼくもそこは苦手だから!代わろうか?」

「いや、やってみせるさ」

まーたやってら。たまたま通りかかった音楽室からは音楽双子の、男にしちゃちょっと高い声が聞こえてきた。しばらくして、綺麗な歌声が聞こえてくる。音楽に疎い俺でも分かるような上手さ。

思わず足を止めて聞き惚れた。ふと、どっちかわかんない方と目が合って、すぐに音がやむ。ガタン!と大きな音を立てて目の前の扉が開いた。

「えーた!えーたがいるよ!兄弟!」

「見えている。よく来たな瑛太。とうとう我らが合唱部に入る気になったか」

「ばっ……たまたま通りかかっただけだっつの!てか俺、入る気ゼロだから!」

「えーた入んないの…?」

「そんな顔してもダメだってば」

要奏(かなめそう)と要凛(かなめりん)。それがこいつらの名前だ。苗字名前合わせて二文字って、どんな名前だよ。名簿で見て興味が沸いて、見てみりゃ双子。見た目はそっくりだが喋り方や性格が丸っきり違うから、最近は黙ってても見分けられる程にはなった。

あれ、これぁ俺、こいつらに慣れちゃってるってことか!?

「えーた、どうせ暇でしょ?お歌聴いてって!」

「そしてそのまま部員になればいい」

「やめろ俺を巻き込むな!!ったく………わぁったよ、どうせ暇だし。生徒会も今日はねぇし」

「そういえば副会長だな。この学校の行く末が不安だ」

「んだとこら!!」

「冗談だ」

真顔で冗談をいう奏。凛は楽しそうに俺の腕を引っ張って椅子に落とした。巻き込まれたが…まぁいっか。二人が喉の調整をして、また歌い始める。

こいつらの声は心地よい。透き通っていて、どこまでもぬけるようで。なんつーか、ハモりも上手いし、選曲だっていい。合唱用の歌を二人きりで歌ってんのも、変な話だけどな。

「えーた、聴いてた?」

「えっ?あ、ああ。上手いな」

「へっへー!そうでしょう、そうでしょう!何度も練習した曲ですから!」

「難易度は高いほうだ。褒めろ、崇めろ」

「へぇへぇ上手だなー。…お前ら、洋楽とか邦楽とか歌わねーの?合唱曲だと、うまいんだけどイマイチ、ノれねぇんだよ」

「?」

凛が分からないと言うように小首をかしげる。だから可愛こぶってもダメだっつーの。男やめてんのかこいつら。

「ほら、ワンオクとか、セカオワ。アヴリルとかワンダイ」

「な、謎の単語がえーたから飛び出してくるよー!」

「む…………。瑛太はMr.英語だからいいでしょうけど、我々は音楽以外からっきしなんだ」

「歌えねーの?」

ニヤリとほくそ笑む。すると面白いように挑発にのるんだよな、この奏チャンは。

「うっ、歌えるさ!どんと来い!我々に歌えぬ曲なぞない!なぁ、兄弟」

「へっ、へぇええ!?そ、そうなの兄弟!?」

「じゃー洋楽でもどうだ?CD聴きたきゃ今あるぜ、待ってな」

教室に戻ってカバンを持ってくる。中からミュージックプレイヤーを取り出した。スピーカータイプにして中々に気に入ってる洋楽を流す。

「歌詞聞き取れるか?言えば歌詞表示してやんぜ」

「へ、平気だ!」

「えーた、ぼくは無理」

「凛は素直だな。結構、結構」

ほら、と凛を手招きして、画面に歌詞を表示させる。しばらく目を眇めたり俺の手首を掴んで近づけたり遠ざけたりを繰り返していたが、三回ほど聞き込んだところで椅子に座る俺の膝の上に乗り上げてきた。

「ちょっ、てめ!」

「I threw a wish in the well
Don’t ask me I’ll never tell
I looked to you as it fell
And now you’re in my way
I’d trade my soul for a wish
Pennies and dimes for a kiss
I wasn’t looking for this
But now you’re in my way...みたいな?」

「……うま」

素直に感心した。女ものの声なのに、難なく出してしまうことも凄いが、英語ができぬと豪語する彼が、曲に乗せてしまえばアッサリと発音までバッチリに歌い上げてしまったことが何よりすごい。膝が重さでギシギシ言ってるがな…!

「ずるい。兄弟。わたしも歌いたい」

「見せてあげなよ、えーた。兄弟をいじめないでー」

「だから、お願いすれば見せてやるって」

「っ〜〜!み、見せてもらえたら歌えるぞ。見せてくれてもいいんじゃないか」

おーおー。面白いこった。顔真っ赤にして制服の胸元握り締めて。……あーダメだ、なんか可愛いこいつら。

「しゃーねーな、ほら、歌詞」

「最初からそうすれば良かったんだ!……ふむ…。よし、合わせるぞ兄弟」

「はぁーい!」

そうやって俺の膝から降りていった凛は、奏と二人して歌詞を見つつ歌い上げた。アレンジもしたらしく、それはアカペラでも随分な破壊力を持つ。録音してやってもいいなぁ、と思うくらいには、まぁ、うまかった。



「…っべ、俺そろそろ帰るわ」

「はぁい。じゃーねーえーた!」

「気をつけて帰ればいい」

「はいはい。じゃあなー。お前らも程々にして帰れよ」

思ったより充実した放課後だった。口元に手を当てて、耳にイヤフォンをはめる。プレイヤーの音をゼロにすると、先ほどの歌を思い出して一人満悦の表情を浮かべた。

また、覗くくらいならしてやってもいいかもな。


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