13
彼、ピップ・ベルナドットは隣を見た
自分の上司で雇い主である同い年の女の子を見た。
ひどくグッタリとした様子で、彼女は車に揺られていたのであった。
ベルナドットは胸が苦しくなったのである。
あんなに楽しみにしていた修学旅行は一瞬にしてダメになり、終いにはヴァンパイアを殺した所を同級生に見られたしまったのである。
修学旅行だけではなく、学校にすら行けなくなってしまったのであった。
そして、友人も死んでしまったのである
グールになった少女は彼女自身が始末したのであった
まだ十代の少女にはこの体験んは辛いだろうと、彼は思ったのであった。
『退学手続きってめんどくさくね?』
だが、彼女の第一声はそれだったのである。
落ち込んでいるのを隠しているんだと、ベルナドットは思いたかっただけど思えなかった。
だって、あの事件の後にアイランズがよこしたヘルシング機関の人間が二人の友人の死体を火葬で燃やした後に言った彼女の第一声はこうだった。
『じゃ、彼女は行方不明って事でよろしく』
なんとも薄情な発言であった。
分かっているんだ、ヴァンパイアもしくはグール化したものは火葬しなくてはいけない事は。
死体はすぐに寄生虫を呼び寄せ、被害が出るのは知っているが…それを平気でやる彼女に驚いたし。
その切り替えの早さに驚いたのであった。
だから思わず口にしてしまったのであった。
「悲しくないのか?」と「友達だったのではないのか」と、そう聞いたのであった。
すると彼女はこう言った。
『申し訳ない気持ちはあるけど、別に…いつかはこうなるんじゃないかと思ってたよ。』
と、そう言ったのであった。
ヴァンパイアがいる世の中で、自分がいるから絶対という気持ちはないと言った。
ヴァンパイアの恐怖を知っているからこそ、その時の覚悟を決めていたし、そう言った付き合いをしてきたよ。
悲しんで、泣いている暇なんてないからね…私は泣く資格なんてないんだよ。
そんな暇あるなら、犠牲者を出さないように…彼らの死を乗り越えて行かなくちゃいけないんだよ。
私は「貴方たちのおかげで私はヴァンパイアを倒せました」しか言える言葉がないんだ・・・。
彼らだって私の涙なんて欲してないさ・・・そう言うもんなんだ。
そう言って少女にベルナドットは絶句した。
なんて、なんて孤独なんだろうと・・・。
友達が出来てもいつか来るかもしれない「死」を予測して、一歩も踏み込めず雁字搦めになっている少女がそこにいた。
だからアイランズは彼女を無理にでも修学旅行に行かせたのか・・・
彼なりの優しさだったのだ…楽しく過ごせと言う意味の。だけどその願いは結局は吸血鬼によって砕け散った。
そんな孤独で可哀そうな彼女の傍に自分はなるべく傍にいよう・・・。
「死」を予期させないほど強くなれば、彼女は一歩踏み込んでくれるのだろうか?
そしたら彼女は孤独ではなくなるのに・・・そう思ってしまったのであった。
そして、そう思ったからこそベルナドットは謎に思っていた事を口にした。
「なぁ、聞いていいか?」
『ん?』
ベルナドットの言葉に優しく返す少女に彼は聞いた。
「この世から、ヴァンパイアとい存在が消えたら・・・・お前はどうする?」
それは素朴な疑問であった。
孤高の頂点に立っているこの少女は、その頂点がなくなった時にどうなるのだろうと思ったのである。
それを聞いたインテグラは目を見開いて、フフンと得意げに笑ったのである。
『アーカードを殺す』
「ハァ!?」
それは突拍子もない発言だった。
予想だにしない発言だった。
『ヴァンパイア退治用のアンデットは共に滅ぶべきさ・・・それに彼はそれを望んでいる。』
そう言って彼女は優しくほほ笑んで、ベルナドットを見たのである。
その顔はインテグラの顔ではなく、別の誰かの顔であった。
『永遠の命なんてね…とても馬鹿げていて。くだらないものさ』
そう言った彼女のほほ笑みを彼は忘れる事はないだろう。
それはまるで、自分がかつてそうであったようと語る死ぬ間際の老人のほほ笑みと似ていたからであった。
屋敷についてインテグラは廊下を歩きながら言った。
『だからね、もしこの世からヴァンパイアが消えて。私が自分の死期が分かったら…アーカードを殺して私は死ぬの。』
そう言って、扉を開いてそこにいた赤の男にベルナドットは寒気を覚えた。
赤の男、アーカードはベルナドットになど興味はなくただ一点である自分の主を見つめたのであった。
「本当か?インテグラ・・・本当に私を殺してくれるのか?」
やはり彼の耳にはすべて聞こえていたのだ。だが彼はとても嬉しそうにインテグラに聞いた。
インテグラは優しく笑って頷いた。
『うん。私が全身全霊を持って貴方を倒してあげるよ・・・アーカード。死んだ貴方の体を抱いて、私は死ぬことにするよ』
そう言うと、彼は一瞬にしてインテグラの前に現れその体を包み込んだのである。
「素敵だ。あぁ、なんて素敵な事だろう・・・初めてだ。初めて不死である事に感謝する。お前に殺されるためにこの命があるのだな・・・」
恍惚の表情で言ったアーカードにその二人に…ベルナドットは何も言わずその場を去った。
「お似合い同士で・・・。」
女は「死なない友」を欲して・・・―――
男は「死を与える人」を求めた・・・―――
なんてお似合いで、滑稽で、美しいんだろう
そうベルナドットは思ったのである。
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