スナオニナレナクテ | ナノ
【スナオニナレナクテ】


素直に好きだと
言えればよかった

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一番譲れないモノは、自分の時間。
一番立ち入られたくないのは、自分の空間。
両方を許容できる人なんて、現れないと思っている、私。
そういう私だから、きっと彼は、自分を出せなかったんじゃないかと。
そう思っている。

「あ、ちょうどよかった」

資料室へ返却する重たいファイルを抱える私に、声を掛けてきたのは。
一番逢いたくない人だった。

「何?」
「いや、ちょっと頼みたいことが…っと、他に頼まれてるんだ? じゃあ、いいよ」

ごめんね、と薄く微笑むこの姿が。
かつて、とても大切だった。
微笑んでいても、その奥が見えなくて。
本当に、彼が自分を好きだと信じられなくて。
私はそれに、耐えられなくなって。

『…別れましょう』
『どうして。僕たちはとてもうまくいっていただろう』
『……気持ちが見えないの。つらいの』

そっか、と彼は小さく呟いて。
そこで私たちは終わった。

(…はずだったんだけど)

彼は変わらず、私に声を掛ける。
メールも、以前よりは減ったものの、それでも毎日来る。
食事も行くことが、ある。
変わったのは、距離感だけ。
歩いていて、ふと触れそうになる手。
前なら、そこで強く握られていたのに。
そっと離されるそれが、寂しいと思うなんて。

「あ、そういえば」
「…なに」
「今夜空いてる? 美味しいお店を見つけたんだけど」

彼は、どういうつもりでこんな風に微笑むのだろう。
何事もなかったように。
私の心だけを、かき乱して。
まだ、こんなにも、。

(すきだと、思わせるなんて)

「どうしたの?」
「別に。終わったら連絡するわ」

背を向けて、その場を離れた私は、知らなかった。
だから、これは、あとから彼と私の共通の友人から聞いた話。
彼は、とても満足そうに、微笑んでいたらしい、と。

「今日もお疲れ」
「ありがとう」

いつものお店で、グラスを合わせる。
いつもと変わらない、味。
いつもと変わらない、笑顔。

「…ごめん」
「どうしたのさ、この間からおかしいよ」

優しさに甘えているのだろう。
彼と私は、もう無関係なはずなのに。

「あぁ、別れたっていうのに、こうして逢ってることが?」
「……そう」

ずっと下を向いている私は、彼の表情が見えない。
声だけが、聴こえるだけで。

「無駄なことだなと思ってたよ」

その言葉に驚いて顔を上げると。
にっこりと、彼は、微笑んでいた。
今までみたいに、心が見えないような微笑じゃなくて。
本当に、嬉しそうに。

「だって、僕以外に好きになれる男なんて、いないだろう?」

君の我儘なところも、自分だけを好きでいるところも、好きでいられるなんて、僕くらいだよ、と。
彼は、微笑んで、続けた。

「そんなに、ひどくないじゃない…」
「そうかな。僕も大概性格悪いと思うけど、君もそうだよね」

そんなことはない、と言い返そうとした瞬間。

「そんなところも、好きだけど」

だから、別れないよね、と。
彼は囁いて、グラスを空けた。


【Fin.】


後書代わりの戯言

さて、LuvALシリーズです。
今度の彼は、あの人です。
もう少しわかりやすく書いてもいいかな、とも思ったのですが。
大丈夫、かな。

宜しければ感想等頂ければ幸いです!

web clap


2012/10/13 Wrote
2012/10/17 UP



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