シュンカン | ナノ
【シュンカン】


ほんの少しの時間でも
貴方に逢いたくて

―※―※―※―※―※―※―※―※―※―

何度も、モニタの時計を睨む。
表示されている時間は変わらない。
定時はとっくに過ぎていて。

(また残業か…)

ぼやいても仕方ない。
手だけは自動で動く。
ついこの間入ったばかりの新入社員は、梅雨明け頃には仕事を覚え。
夏バテに苦しむ私に、出張土産を渡す程、になった。

(優秀、な人材は、お姉さんはいいと思うなぁ…)

人を観察することが好きだから。
ずっとこの位置にいても、苦にならない。

(今日は、八つ橋)

食べられなかった昼ごはんの代わりに。
カリっと音を立てて、口に咥える。

「あ、まさかそれが晩御飯とか言わないだろうな」
「…まだ残ってたの?」

中途採用で入ってきた、新人。
でも、同じ年の。
知識量も豊富。
コミュニケーション能力も、長けていて。
経験値も、高い。

「お土産のお菓子じゃなくて、ちゃんと食べろって言っただろう」

同期のような親しさで。
ずっと、ここにいたような気軽さで。
彼が、溶け込むのは早かった。
私の心、にも。

「別に、いいじゃない」

モニタから視線を外さずに、答える。
すると、彼もまた、正面の自席へ戻った。
広いフロアに。
たった、二人きりで。
薄暗い照明と、無駄に明るいモニタ。
それから、熱を発する端末の音。

「今日花火大会だって?」
「へぇ…だから昼間、浴衣の子が多かったのね」

顔は上げない。
あと少し、だから。
それとも、顔を上げれば、彼が、。

「そろそろだろ。屋上」

ほら、と缶ビールを差し出されて。
それから、誘う言葉。

「行くぞ」

彼が、たまにこうやって見せる優しさの意味が。
考えると、頭が痛くて。

(心が、痛い)

たぶん、私たちは、傍から見れば、そういう関係に見えるのだろう。
今まで一度だって、明確な言葉で表したことはないのに。

「きれい…」

夜空に開く、花。
色とりどりの、輝き。
咲いては。
散って。

「今度の日曜、」

小さく囁かれた言葉は。
気を付けていなければ、花火のように、跡形もなく消えてしまう。
その瞬間だけの、言葉。

「……うん」

もう少しだけ、こうして一緒にいられたらいい。
そして、この想いを、伝えられればいい。

…いつか。


【Fin.】

後書代わりの戯言


久しぶりに、LuvALシリーズ。
夏だから、こういうのもアリかな、と。
モデルはいますよ、うん。


宜しければ感想等頂ければ幸いです!

web clap

2012/08/14 Wrote
2012/08/14 UP




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -