Smoke gets in your eyes・1 | ナノ
【Smoke gets in your eyes】


――それは、軽い息抜きのはずだった。


「あぁ、だから、言っただろう。俺はもう…っ」

小さな電話機の向こう側で、甲高い声が響く。
それがどれだけ俺の不快指数を上げているか、きっと相手は気付いていない。

「今忙しいんだ。切るぞ」

相手の返事を聞かないまま、会話を中断させ、更に電源をオフにする。
一時の静けさを得る。
それが本当に一時のことだとわかっていても。
これまでの時間を思えば、天国のようだ。

「アイツもあんなじゃなかったのになぁ…」

煙草を口に咥えながら、呟く。
無意識の動作で火を点し、深く息を吐く。
遠く波間に消えようとしている陽の姿を、目に焼き付ける。
あぁ、もうそんな時刻か、と溜息が漏れた。
ふと、暗くなった液晶画面を眺め、さっきまで話していた相手の顔を思い浮かべる。

いつからだろう。
いつから、こんなにもお互いの距離は離れてしまったのだろう。
初めて出逢ったときから、俺たちはいろんな壁を乗り越えたはずだった。
普通の出逢いから、普通ではない付き合いへ移行しても。
それでも、自分たちは大丈夫だと信じていた。

(恋い慕う気持ちだけ持っていればよかった)
(世界は、自分たちだけで構築されていた)
(それだけで、全て成り立っていた)

時を経て、それだけでは済まなくなって。
世界は様々な接点を持つことを知らされて。

(俺だって努力したんだ)

けれど、それらが努力とは言えない努力だってことは、もう知っている。
後ろめたくて。
哀しくて。
紛らわす為に、また、煙草を口に咥える。



コイ
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