破片


ぁ、と小さな声が漏れて。
それから、床で耳障りな音がした。

「…割れました?怪我、してないですか?」

そっと手を取られて。
手のひらから指先まで確認されて。

「…くすぐったい」
「我慢してください」

大事なもののように、扱われることに、まだ慣れないでいる。
素直にそう伝えると、独特の微笑で、貴方らしいですね、と囁かれた。

「そんなところも好きです…酉次郎さん」
「…蓮」

名前を呼ぶと、嬉しそうに微笑むから。
ねだられる前に名前を呼ぶ。
それくらいしか、できることはないから。

「また、そんな顔…」
「え…」
「言ったでしょう…好きな人の事は、ぜんぶわかるんです」

やさしく抱きしめられて。
抱きとめられて。
どうすればいいか、考えてしまう。

「考えなくて、いいです…そばにいてください」

優しい声でそう囁かれるから。
だから、抱き締め返して、好きだと、囁き返す。

「酉次郎さん…」
「蓮」

お願いだから、そんな哀しい目をしないでほしい。
何度もそう伝えようと思って。
その度に、とどまって。
せめて、この温もりだけは本当に彼のものなのだと気付いてほしくて。

黙って、抱き締める。


【Fin.】


Twitterタグより。
珠蓮さんリクエストで、弁財さん受


2013/11/25 Wrote


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