未送信


昨日は珍しく、綺麗に月が見えた、と思い返す。
端末を握り、伝えたい、と指を滑らせた。
けれど、送信ボタンの手前で、消してしまう。

(意気地なし、だなぁ)

わかっている。
彼にとって自分は、単なる同僚で。
それどころか、。

(…やめよう)

端末の画面に視線を落とし、溜息をつく。
あぁ、こうやってまた、送れないメールが増えていくのだ。

『寒くなりました。風邪を引いていませんか』
『今日の出動の時、怪我をしませんでしたか』
『明日の朝練、手合せをお願いしたいです』
『月が、綺麗でした。貴方と見たかったです』

何度も見返して、覚えてしまった文面。
どれも、伝えたい想いを隠して、上手に作ったつもりで。
でも、何処かで漏れてしまっては何もかもが終わると思って、送信できていない。

「榎本?こんなところで何してるんだ」
「ぁ…、加茂さん…お疲れ様です」

勢いよく立ちあがった拍子に、端末を落としてしまう。
慌てて拾い上げる前に、彼の綺麗な手が、拾い上げてしまって。

「…言いたいことがあるなら…メールじゃなくて、直接言えばいい」

差し出されながら、微かに頬を染めて告げられた言葉に、呼吸が止まる。
まさかと思って慌てて端末の画面を見ると、一番、本人に見られたくなかったメールの文面が、開かれたままだった。

「…俺も、だ」
「え…」

顔を上げると、じっと見つめられて。
そして、。

「俺も、お前が好きだ」

端末は手から落ち、カラカラ、と音を立てて床を滑る。

――『加茂さん…すきです』

一番送りたくて、送れなかったメールを、残して。


【Fin.】


Twitterタグより。
沙那さんリクエストで、加茂榎


2013/11/25 Wrote


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