意地悪で不器用な君


はなから叶うとは思っていなかった。
同性だから、とか。
友人の関係を壊したくない、とか。
色んな理由を付けて、逃げていた。
それだけだ。

『あ、弁財…俺、日高と付き合うことになった、から』

言いにくそうに。
それでも幸せそうに微笑む姿に。
息を呑んだ。
心臓が止まるかと思った。
気付かされた。
彼はもう、手の届かないところへ行ってしまったのだと。

「ばかだなぁ…」

この想いが、結局恋だったのか、それとももっと違う感情だったのかはわからない。
わかる前に、散ってしまったから。
ただ、今残るのは、淋しさ、だけだ。

「弁財さん?そんなところでどうしたんですか」
「あ、伏見さん…」

そんなところ、と彼が訝しむのも無理はない。
ここは、執務室から離れた廊下の端にある自販機の傍で。
自分は、ただ、ぼんやりと、立っていただけなのだから。

「…あぁ、ココからだとよく見えるんすね…」
「え…」

ふ、と彼が視線を上げて、遠くを見つめて。
納得したように呟いて。

「俺も、ずっと見てたんで…あんたを」

向けられた視線は、覚えのある、ものだった。
焦がれて。
願って。
けれど、諦めるしかない。
そんな、いろんな色の混ざった。

「俺は…ずっと、ここでアイツを見てました」

ふ、と視線を逸らす。
逸らした先には、彼がよく喫煙をしていた、場所が良く見える。
いつも、ここから見ていた。
仕事で疲れている様子を見せた時も。
眠そうな時も。
彼が、想う相手と、語らう時も。
ずっと、ここから、ひとりで。

「ねぇ、伏見さん」
「…」
「どうして此処にいてくれるんですか」

ぼんやりと、呟いた言葉に、意味はなかった。
けれど、心の何処かで、何かを期待する自分もいて。
自分より年若い彼に、縋りそうな自分がいて。

「…あんたが、泣きそうだから」

ぽつり、と投げかけられた言葉に、苦笑した。
向き直って、視線を合わせて。

「泣かないですよ」
「ウソツキ」

誤魔化しを許さない、真っ直ぐな言葉に。
心が乱れた。
何故、彼は気付くのだろう。
気付いて、しまうのだろう。

「俺は、…」
「…はい?」
「あんたが、どうしたら笑ってくれるかとか、そんなことばっかり考えて…」

きゅっと唇を噛み締める姿に。
あぁ、この青年は、本当に自分を案じてくれているのだ、と。
嬉しくなった。
心が温かく、むず痒くなって。

「…ありがとうございます」
「弁財さん?」

多くは、望まない。
ただ、この温かさを逃したくない気持ちが強くて。
そっと、微笑んだ。
こんな風に自然に笑えたのは、いつ振りだろう。

「伏見さんが、此処に、いてくれるだけで、いいです…」

芽生えたばかりのこの想いがどうなるのかは、まだわからない。
けれど、きっと彼は、答えが出るまで傍に居てくれるのだろう。
ふと、そう思った。


【Fin.】


――ほんとうに、すきだったよ


お題は、反転コンタクト様から頂きました。


2013/09/17


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