やさしく、はげしく、いだかれる


気にしていないわけではなかった。
ずっとひとりだった自分と違い、彼は、たぶん、そういった経験があるのだろう。
想いを通わせ合って。
これまでより多くの時間を、共にするようになって。
交わす視線に。
触れる指先に。
幸福と、不安を抱えるようになって。

(なんで、なにもしないんだろう)

セックスどころか、キスさえ。
なにも。

「自信なくすなぁ…」

ぽつり、と呟いた言葉は、誰にも届かず、空気に溶けた。
そんな日々を送る中。
お互いの非番が重なって、じゃあ、久し振りにデートでもしようか、と誘われて。
一緒に出掛けた、日。

「ねぇ、日高」
「ん?」
「…なんで、何もしないの」

問いかけると、一瞬のうちに、顔を真っ赤にさせて。
視線を泳がせて。
言葉がなかなか出ないように、口をぱくぱくとさせて。

「…日高?」
「エ、エノ、は…いいの?」

ぎゅ、と手を握られて。
やっと、言葉を紡ぎ出した彼は、とても、とても。

(…かわいい)

「あのね、何も考えずに、日高と付き合うって決めたわけじゃないんだよ?」
「う、ん」
「好きだから、なにもかも、あげたいと思ったから、言ったんだよ?」

わかってほしいな、と微笑むと、彼は、ちいさく、ちいさく頷いた。

(よかった)

「じゃあ、帰ろうか」

と声を掛けた途端、ぽつぽつ、と滴を感じたかと思うと、いきなり大粒の雨が激しく降り注いだ。
あ、と言う間もなく手を引かれる。

「凄い雨だな」
「そうだね…天気予報では何も言ってなかったんだけど」

雨宿りしつつ、雨が止むのを待つ。
場所が狭いので、身動ぎする度に、肩が触れて、びくり、とされる。

「…日高?」
「な、なんでも、ない」

こちらを見ようとしない様子に、さすがにイラっとする。
溜息をついて、辺りを見渡すと、ちょうどいい建物を発見した。
これで何も起こらなければ、もう、どうしようもないだろう。

「あそこ行くよ、日高」
「え…ちょっ、エノっ」

制止する声も聴こえたけれど、無視してしまう。
いい加減、どうにかしたかったのだ。

「あのね、日高……日高?」

どうにか彼を宥めながら部屋へ入り、溜息をつく。
視線を向けると、手を繋いだまま、空いた方の手で顔を隠して、蹲っていた。

「エノは、慣れてるかもしんねぇけど、」

ぼそぼそと聴こえる声が、聞き取りにくくて。
一緒にしゃがみこむ。

「俺、はじめてだから、わかんねーんだよ…」
「…ひだか」

いとしさが、こみ上げた。
繋いだ手を離して、ぎゅ、と抱きしめた。

「だいすきだよ、ひだか」
「…うん」
「だから、ぜんぶちょうだい。僕のぜんぶ、あげるから」

顔を寄せて、そっと、口づける。
受け入れるのは、自分のほうだろう。
だから、これくらいはゆるされてほしい。

「え、の…」
「ばかひだか」

笑いかけると、ぎゅ、と抱きしめられて。
そして、そのまま、嵐のように、。


【Fin.】

チカさんへ。
お誕生日おめでとうございます!


2013/08/30 Wrote


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