期待させないで意地悪


現状が楽しいと思っていた。
心なんていらなかった。
どうやっても変わらないのなら。
このままでいいと、思っていた。

「そんなのつまんねぇ」

言い放って、世界を変えたのは、彼だった。
それから、少しずつ、彼は自分を変えて。
心を染めて。
誰よりも真っ直ぐで。
誰よりも明るく。
誰よりも、純粋で。
上司から同僚へ立場を変えても。
そんな彼の態度はまったくと言っていい程変わらなくて。

「五島っ、あのさ、」

巡回の最中に、駆け寄ってきて。
耳元で囁くのも。
いつものことで。
一緒に悪戯をしかけて、楽しむことが日常で。
それを楽しいと思う気持ちと。
苦々しいと思う気持ちがあって。

(どうして、彼は、自分だけを見てくれないんだろう)
(どうして、彼は、いつも他の人ばかり、見ているんだろう)

「道明寺さん…いい加減にしたほうがいいですよ」

溜息混じりに返すと、彼は目を丸くして。
それから、哀しそうに、微笑んだ。

「…ごめん」
「え…」

肩に置かれていた手が静かに離れて。
温もりが離れたことを、淋しいと感じてしまった。

「お前が嫌がってたの気づかなくてごめんな」
「ちが…っ」

捕まえようと伸ばした手を。
彼はじっと見つめるだけで。

「お前さ、欲しいモノ、ある?」
「えっと…」
「いつもさ、俺の我儘きいてくれるから、何考えてるか、わかんなくて」

だから、色々考えたのだと、彼は言う。

(…バカ、かな)
(でも、そんなところが)

「道明寺さんがすきですよ」

告げた言葉に、自分がびっくりする。
あぁ、そうか。
自分だけを見てほしいと思うのも。
苦しいのも。
切ないのも。

「うん、すきです」
「そんな、こと…」
「伝えたかっただけだから、別に応えてくれなくていいですよ」

うまく笑えているだろうか。
いつものように。
心を隠して。

「…そんな、泣きそうな顔するな」

言われて、抱き締められる。
離れようともがいたけれど、まったく力が緩まない。
さすが元隊長、とどこかずれたことを思う。

「俺さ、すきだよ」
「んふふ、うそつき」
「嘘じゃないって」

何度も聴きたくて。
信じない振りをしたけれど。
きっと、ばれているんだろうな。
じわりと滲んだ涙を誤魔化す為に、肩口に顔を埋めたことも。


【Fin.】

みずほリクエストの、道五。


お題は、反転コンタクト様から頂きました。

2013/08/08


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