薄く唇を開いて


元々、見境はなかった、と思う。
触れることが好きで。
触れ合うことが好きで。
でも、こんなにも甘くて、貪りたいのは、。
たったひとり、だけだ。

「ん…ふ…しつちょ…」
「ふしみ、くん」

執務室で。
いつだれが来るかわからないような状況で。
座る彼の膝の上に乗り上げて。
首に腕を回して。
ふかく、はげしく。
舌を絡めて、キスをする。

(きもち、いい)

こんなにも気持ちがよくて。
ぞくぞくして。

(イっちゃいそう)

そんなの、この人だけだ。

「君は本当に…すきですね」
「ん…俺、キス、すき…」

もっと、と強請ると、困ったように微笑んで。
それでも、口づけを返してくれる。
それが嬉しくて。
反面、もどかしくて。

(どうして、そんな風に、わらうの)

こういう関係になったのは、たまたまだった。
偶然手が触れて。
それが気持ちよくて。
もっと触れてもらえたら。
深く、触れたら。
どんなに気持ちいいだろうと思って。

(どうして、だろう)

どうして、この人なんだろう。
この人だけ、なんだろう。

「しつちょ…」
「なんですか」

ふと、思い立って、疑問を口にしてみる。

「室長のキスだけなんです…気持ちいいのも…甘いのも」

どうしてでしょうね、と囁くと。
彼は、困ったように眉を下げて。
苦笑して。

「…伏見くんは、まだ、気付いていないんですね」

そんな風に、答えた。
それがなんだかかなしそうにも見えて。
心が痛んだ気がした。

「疲れているんですね…少し休みなさい」

そっと抱き締められて。
頭を撫でられて。
だんだん、瞼が重たくなってきた。

(…こんなに気持ちいいのは、この人だけ)

それがどんな意味を持つのか。
まだ、知らないまま。


【Fin.】

お題:贖罪アニュス‐デイ


2013/08/05 Wrote


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