臆病者は愛に落涙


何度も、口に出そうとして。
そして、閉じ込めてしまった言葉がある。
情けないと言われた。
意気地なしと言われた。
けれど、それでも。
彼には、前途有望な未来があって。
自分のような人間の傍にいても、何の得にもならなくて。

「何が得か、損かは、自分で考えます、日高さん」

思い詰めて、言葉を惜しんでいると。
そんな風に言葉を投げかけられた。
その言葉をどれだけ信じたいと思っただろう。

「でも、俺は…たぶん、普通じゃないから。それに、タケの人生を巻き込むわけにはいかない」
「自分の幸せは、自分で決めます」
「タケ…」

顔を上げると、嬉しそうに微笑む姿があって。
それは、最初に、心奪われた笑みで。

「ごめんな、タケ…好きだ」
「謝らないでください。…怒りますよ」

好きですよ、と言われて。
そっと抱き締められて。
伝わる温もりに、涙が止まらなかった。

「日高さんは泣き虫ですね」
「うっせ…」

初めてのキスは、すこし塩辛かった。
ぎゅっと抱きしめて。
それから、なんどもキスをして。
抱いているのに、抱き締められている気がして。
この幸福が、ずっと続くといいと。
哀しいくらい、真っ直ぐに願った。

「大丈夫です。傍にいますよ」

俺もだ、と囁いて。
すこしの隙間もないほど、強く抱き締めた。


【Fin.】

お題:贖罪アニュス‐デイ


2013/08/05 Wrote


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