気持ちが詰まって苦しい


悔しい、と思った。
どうして、こんな想いをしなければいけないのかと。
唇を噛み締めていると、ぷつり、と切れた感触がした。
舌先で血の味を感じながら、呆然とする彼へ、視線を向ける。

「…っ、の、鈍感野郎っ」

思い切り罵るつもりで。
けれど、そんな陳腐な言葉しか出て来なくて。
どうして、だろう。
どうして、こんなに傷付いても。
それでも、彼が好きなのか。

「道明寺…、」
「もういい、喋るなっ」

鈍感だと思っていた。
けれど誠実で。
真っ直ぐで。
優しくて。
そんなところが好きで。
でも、。

(鈍感にも程があるっ)

足元に、薄いピンクの封筒とがくしゃくしゃになって落ちていた。
踏みにじることも出来なくて。
情けなくて。
ぽたり、と滴が零れた。

『あ、道明寺。これを…』
『なに、これ』
『総務課の女子から預かった。よかったな』

怒りで目の前が赤くなる、だなんて。
そんな経験するとは思わなかった。

「な、んで、お前が、それを…っ」
「道明寺」

手を伸ばされて。
けれど、触れられたくなくて、振り払う。

「触んなっ」
「道明寺っ」

がつ、と音がして。
勢いよく抱き締められた。
温もりを嬉しく思うよりも、痛みが先にきて。

「な、に…」
「泣くな」

ぎゅ、とつよく、抱き締められた。
身体が震える。
唇が震えて、吐息が漏れる。

「は、なせ」
「いやだ」

かなしい。
つらい。
やめてほしい。
彼の優しさは、時に凶器で、刃で。
心をずたずたに、切り裂くのだ。

「今、離したら…お前が何処かへ行ってしまう」

そんなことはあり得ない、とは言えなかった。
部屋を出て、上司に部屋替えをお願いしようと、していたのだから。

「何処にも行くな。俺の傍にいろ」
「それは、やさしさ、じゃない」
「あぁ、優しさなんて、ない」

その言葉に、身体の震えが止まった。。
離れるなという、その言葉が。
優しさではなく、エゴなのだという、その言葉が。

「…ダメだ…俺、加茂に言っちゃいけないことを、言ってしまう…」

両腕は離すことも、縋りつくこともできずにいた。
なのに、触れたくてたまらない欲求だけは高まって。

「言っていい。言ってくれ」
「や…だ」

涙が止まらない。
お願いだから離してほしいという懇願も聴いてもらえず。
想いを吐き出せという彼の言葉を素直に聞けるわけもなく。

「…すまない。俺は、試したんだ」

手紙を受け取ったときに、優越感があったのだと。
自分は、その手紙を受け取らないだろうと。
けれどそれが、自分を傷付けるなんて、思いもしなかったのだと。

「すまない…道明寺」
「ずるい…加茂、ずるい…」

涙が止まらない。
けれど、その意味は、さっきのとは違う。
期待に満ちている。

「俺、加茂じゃなきゃ、やだ…」
「あぁ、俺もだ」

その言葉を聞いて、やっと、腕が動く。
彼の背中にそっと手を回すと、折れるんじゃないかってくらい抱き締められて。

「加茂…くるし…」
「もっと苦しくしてやる」

顔を寄せられて。
ふかく、はげしく、口づけられた。


【Fin.】

お題は、反転コンタクト様から頂きました。


2013/08/02 Wrote


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