熱を帯びて、


自分でも、どうして、こんなことになったのか、わからない。
どうしたら、抜け出せるのかも。
抜け出したいのか、どうかさえ。

「や…も…やめ…っ」

好奇心は身を滅ぼす、という言葉は本当だと痛感した。
捕獲したのは、害のないストレイン、の筈だった。
それは人語を介さないモノだったけれど。
とてもおとなしくて、害意はないと判断されて、ウサギにそのまま引き渡される筈だった。
生物とも植物とも違うその形態に、興味を持ってしまって。
何度か触ろうとしたのを、秋山さんに注意されて。
なのに、夜中にやっぱり気になって。
同室のゴッティが寝ている隙に、起きて。
保管室へ足を向けてしまって。

「そこばっか…やめ…っ」

甲高い声。
愉悦に満ちた声。
快楽に堕ちた声。
自分のものではないような。
でも、紛れもなく自分のもので。

(だれか、)

保管室にいたのは、昼間見た時より少し大きくなったソレで。
うねうねと動くさまが、イソギンチャクのようだと思った瞬間。
そのうち数本がいきなりケージを壊した、のだ。

(それから、)

手足の自由を奪われて。
身に着けていた衣類を溶かされて。
足を開かされて。

(隊服じゃなくてよかった)

そんなことを思えたのは、最初だけ。
ソレ、は、身体を這うように、確実に気持ちの良いところを探って。
そんなところはありえないと思うようなところも、触れていって。
そして、その跡に確実にそれ以上の快感を求める何かを塗り付けて。
それから、何度精を放ったか。
何度、後穴を弄られたか。
そこで、快感を得てしまうことに、慣れてしまったか。
数えることもやめてしまうほど、気持ちよくて。
半分、意識は飛びかけていて。

「ふぁ…も、そこ…っ」

ソレが、身体を動かしているのか。
自分が、身体を動かしているのか。
わからなくて。
朦朧として。
気持ちいいと、それしか考えられなくて。
はっきりしているのは、ソレが、やっぱり危害を加えることはなくて。
ただ、放たれた精を、摂取しているということで。

「…イイ恰好をしているね、日高」

闇の向こうに、聞き覚えのある声がした、と思ったのが最後で。
それから、ソレは勢いを徐々になくして。
ひっそりと、ケージに戻っていった。

「あぁ、満足したのか。いったいどれだけヤられたんだ」
「あ…きや…」

声の主は、秋山さんだった。
少し呆れたように吐息を吐いて。
シャツを羽織らせてくれて。
手を差し伸べてくれた。

「す、みませ…」
「別に謝る必要はないな。今日は弁財もいないから、とりあえず俺の部屋に連れて行くけど」
「は、い」

その時、気付けばよかった。
身体の奥に残る、微かな疼きに。
タイミングよく表れた秋山さんに。
何かを知っているような、言葉に。
それから、嬉しそうな、楽しそうな、声に。

「ほら、シャワー浴びて来い。その格好ひどいぞ」
「あ…」

明るいところで改めて見ると、よくわからない液体で身体中がドロドロだった。
半分は自分のものだとわかっていても、やはり気持ちいいものではない。

「シャツ、洗濯しときます、」
「別に放っておいていいよ」

そう言われても、やっぱり申し訳なくて。
備え付けの洗濯機にシャツを放り込んだ。

(そういえば)
(どうして、秋山さんはシャツを持って、あそこにいたんだろう)

ふと思い浮かんだ疑問を深く探る前に、冷たいシャワーに意識を取られてしまって。
それきり忘れてしまった。

「うぅ…気持ちわりぃ」

何度擦ってもねばついた感触は消えなくて。
それは、表面だけではなく、身体の内側も、もちろんで。

(嫌だけど、しかた、ない)

「ん…ふ…」

指を後穴に当てて、くぱ、と広げて。
吐き出されていた何かの液体を、必死で掻き出す。
どろり、とした感触が、さっきの行為を思い出させて。
身体が、熱を帯び始める。

「んん…、」

指では届かない、奥が、疼く。
さっきの快感がじわじわと、生まれる。

「…意外だったな…日高、そういうことするんだ」
「ひっ」

瞬間、思い出す。
此処は、自分の部屋ではない。
此処は、。

「あ、秋山さ…これは…っ」
「いいよ、続けて。見ててあげる」

片手にシャワーを持って。
片手は、後ろに回っていて、中を弄っていて。
足は、ドアに向けて、開いて。
何をしていたのか、なんて。
説明しなくても、丸わかり、だった。

「それとも、誘ってるの」

真っ直ぐに、自分を見下ろす秋山さんの目が。
いつもと違って、いて。
熱を、帯びて。
口元に浮かぶ笑みが、楽しそうで。

「あ…そん、なことは…」
「じゃあ、コレ、なにかな」
「ちょ…っ」

躊躇いもなく、手を伸ばされて。
触れられて、しまう。
明らかに快感を覚えて、反応を示している、そこに。

「日高の、おおきいんだ」
「やめ、てください…っ」
「なんで?このままだと気持ち悪くない?」

手伝ってあげる、と耳元で囁かれて。
そのまま、耳を舐められた。
さっきのとは違う、生温かい、ぬめっとした、感触。

「ふぁ…っ」

声が漏れるのが恥ずかしくて咄嗟に手で押さえる。
がしゃ、と音を立てて、シャワーヘッドが落ちる。

「あぁ…落としちゃダメだよ。割れるじゃないか」

秋山さんの身体が、密着して。
秋山さんの手が、俺の、勃ち上がったモノから離れなくて。
扱かれて。
もう片方の秋山さんの手が、シャワーヘッドを短めに持って。
そこから出る、少し熱いお湯が、胸を刺激していて。
熱いのと、強めの刺激で、。

「も…やめ…離してくださ…っ」
「なんで?ほら、こんなに元気なのに」
「や…でちゃう…」
「出して良いよ」

ふ、と息を吹きかけられて。
真っ白になった。
さっきとは違う、緩やかで、けれど、衝撃的な、快感。
それをもたらしたのが、そんな事しそうにない、って人で。
その事がまた、快感をより深くしていたのに、気付いていた。
気付いていたけれど、気付きたくなかった。
自分が、そういう人間だと、思いたくなかった、んだろう。

(これじゃまるで、)

思い浮かんだ言葉を、慌てて打ち消す。
認めたら、いけない。

「ど…して…」

自然と零れる涙が、止まらなくて。
どうして自分が泣いているのかもわからなくて。
わからなくて、秋山さんに、震える声で聞くと。
少し悩むように天井を見つめて。
それから、にっこりと微笑んで。

「んー…日高がかわいかったから」

あっさりと、秋山さんは、答えた。
その言葉に呆然としていると、そう言えばさ、と秋山さんは続けた。

「こっちは、キレイにした?」

しっかりと、身体を引き寄せて。
シャワーヘッドの向きを変えて。
空いた片手を、。

「やめてくださ…っ、んんっ」
「うわ…まだどろっどろ」

さっきまで自分が弄っていたそこに、彼の指が入ってきて。
ぐちゃぐちゃと、掻き回されて。
それは、掻き出す行為じゃなくて。
そうじゃなくて。

「そこ、やぁぁっ」
「ん、ココか…日高のイイところ」

秋山さんは、優しく、じゃあ、キレイにしようね、と囁いて。
シャワーヘッドを、そこに、当てた。

「あぁぁっ、や、やめ…っ」
「動いちゃだめだよ、日高。掻き出せない」
「や…あきや…まさ…やめ…、それ、や…っ」

びくびくと、身体が震える。
指では届かなかった、身体の奥に。
勢いのある、お湯の塊が入ってきて。
奥の、気持ちのいいところを、絶え間なく刺激して。

「キレイにしてるだけなのに…日高はいやらしいんだ」

ねっとりとした声で、言われた瞬間。
触れてもいないのに、触れられてもいないのに、達してしまった。
どろり、としたものが、腹を伝って、腿を伝って。

「ふぁ……も、やめ…」

なのに、秋山さんは、止めてくれなかった。
シャワーのお湯だけでなく、指も、中を蠢いていて。

(とまらなく、なる)

身体の奥の、奥に、違和感のように残っていたソレが、ドクリ、と脈打つのがわかった。
自分の鼓動と違う鼓動。
熱が生まれて。
疼いて。
止まらなくなる、と本能が、悲鳴を上げた。

「あきやまさ…も、とめ…、とまらなく、な…っ」
「いいよ、何回でもイきな」

その言葉に宿る、悦びに満ちた声に、顔を上げると。
本当に嬉しそうに、楽しそうに、秋山さんが、微笑んでいた。

「ね、今度は、俺も気持ちよくして」

シャワーヘッドを手放して、秋山さんは、俺の身体を持ち上げた。
そして、。

「ああぁぁっ」

勢いよく、落とした。
自分の、秋山さんの、勃ち上がった、その上に。
すっかりほぐれた後穴は、何も抵抗もなく、彼を受け入れて。
見つけてしまった、見つけられてしまった、気持ちの良いところを、掠めて。
その衝撃に耐えきれなくて。

「またイったね…ほんと、日高って淫乱」

でも色が薄いね、もう空っぽなのかな、と明るく告げる言葉の意味もよくわからなくて。
ただ、続けざまに達したことで、身体の力が入らなくて。
びくびくと、震えて、秋山さんに縋りつくことしか、できなくて。

(いんらん)

さっき、思い浮かべて、すぐ否定した言葉。
でも、それを投げかけられて。
本当に自分がそうなんじゃないかと、思ってしまって。
心の何処かが、ふわ、と楽になった、気がした。
そうなるともう、声が止まらなくて。
動きも、止められなくて。

「ん、もっと…あきやまさ…もっとおくぅ…っ」
「あげるよ、日高。いくらでも」

浴室から出ても、身体は離れてくれなくて。
秋山さんの寝室にそのまま運ばれた。
それから、出るものも出なくなって、声が枯れて、意識が飛んでしまうまで。
何度も何度も、貪った。
彼を。
快感を。
自分の、思いもよらなかった、性を。

「日高、これからも、俺がかわいがってあげるよ。もうあんなモノ、使わなくてもいいから」

最後、意識を失う寸前に聞こえた言葉に。
あぁ、やっぱり秋山さんは、全部わかってたんだと、。
気付いたけれど、気付いたところでどうにもならなくて。
緩く、微笑んだ。


【Fin.】

2013/07/08 Wrote


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