トリックスターは着地しない ∞


 シュバリエ学園には、昔から伝わる伝説がある。
 学園の北にあるバッキンガム塔には、世界を揺るがす程の財宝が眠っているという話だ。
「―――何?」
 鏡だろうか、反射した日差しが彼の頬を照らしているのが、温度でわかった。
 少女の悪戯に、アラミスはそちらを向く。ラ・ヴォリエルの中は雪割草や水仙や、いくつもの花に香っている。如雨露を置いてベンチに行くと、彼女が手を引いて横に座らせた。
「はい、これあげる。拾ったんだ」
 彼女が彼の手の中に落としたそれは、ひんやりと硬質な手触りをしている。
「なんだかわかる?」
「アクセサリーだね。随分なアンティークみたいだけど」
 大振りの石が二粒。包む台座の繊細な窪みをなぞりながら、アラミスは答える。
「これがどうかしたの?」
「別に」
 彼女はアラミスの手からそれを攫うと、チカチカと光に傾けた。なんだか少し気になって、アラミスは彼女の肩に触れる
「ねえ、アラミス様?」
 彼女が彼をこう呼ぶ時は、からかいたくて仕方がない時だ。
「もしもこれがバッキンガム塔のダイヤだったら、どうする?」
「きみにあげる」
「………は?」
「聞こえなかった? きみにあげる」
「なんで? 目を治したいとか人生やり直したいとか、色々あるでしょ?」
「僕の目を治してほしいの?」
「質問に質問で返さないで」
「欲しいものはもうあるからね。強いて言えば、きみのお願いをなんでも叶える力があればいいけど、だったらダイヤを渡せばいいじゃない」
「………………」
 少女は沈黙すると、アラミスの膝にちょこんと座った。どうやら周りには誰もいないらしい。ドアの向こうも、いつの間にか静かだ。
「じゃあ貴方がド近眼になるように願って、瓶底メガネを手放せなくします」
「それは嫌。第一、コンスと眼鏡が被るじゃない」
「我が儘ですね」
「でもきみはそんな僕が……」
「嫌いです」
 噛み付くように彼女は言い、アラミスの髪を引っ張った。
「いたた、痛いよ」
「これでセーターを編むんです」
「僕の髪はセーターを編める程太くないよ?どうせなら薔薇のモチーフのレースにして欲しいな。……いたっ、ちょっと本当に抜かないで!」
「馬鹿なことばかり言うからですよ」
 少女は溜飲を下げると、彼の胸に頭を凭れる。
「貴方のおかげで、私の人生はめちゃくちゃです」
 ダイヤを机に放り出し、彼は笑った。
「C'est la vie!」



 ――トリックスターは今日も世界を覆す。










2011/11/06 up



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