Trick or Treat


「Trick or Treat!」
 いやに流暢な発音に振り返ると目の前をオレンジ色が覆った。
「きゃ……!」
「ははっ、ごめん。びっくりした?」
 目の前にいたのは大きなカボチャ頭で、くり抜いた目と口の向こうに悪戯っぽく笑う顔が見える。
「日生先輩……とても驚きました。それはハロウィンの仮装でしょうか?」
「そ。吸血鬼でも良かったんだけど、桐島に譲ったよ。まあ彼の場合、日光に当たっても灰にならなさそうなタフな吸血鬼になりそうだけどね」
 日生は笑って片目を瞑った。
 
「で、お嬢。お菓子と悪戯、どっちにするの?」
「悪戯はもうなさったじゃありませんか」
 小鳥のような胸を押さえて、紗夜はツンと顎を反らした。ちいさな心臓はまだ早鐘を打っている。
 日生は肩を竦めると、彼女の黒檀のように艶やかな髪の一房を指に絡めた。
「それは失礼。じゃあ、甘い方を頂こう」
 カボチャ頭は、少女をぱくんと食べてしまうかのごとく覆い被さると、掬った髪に口づける。ぎゅっと目を閉じた紗夜を見て、日生はくすくすと笑った。
「怖がらせたかな?」
「いいえ」
 紗夜は顔を上げると、カボチャの頬にキスをした。
「私の愛をさしあげますから、早く呪いを解いて、元の姿に戻ってください」
「ふふ……了解」
 姫の可愛いおねだりに、王子は微笑んでその細腰を抱き上げた。



 (その先は、二人だけの甘い悪戯)









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