甘いモノは没収します!


「また貴女ですか」
 柳眉を逆立てて、高城大和は眼鏡のブリッジを押し上げた。その手にはたくさんの小さな包みが入った籠がある。
「ファンクラブのハロウィンイベントなのよ。知ってるでしょ?」
「今日が10月31日であるのは知っていますが、その様なイベントを許可した覚えはありません」
 恋から取り上げた籠の中身は、クッキーやらカップケーキやら、お菓子ばかりだ。意外と料理もできる彼女のこと、これらは恋のお手製だろう。
 面白くない、と思う己に気づき、大和は嫉妬している自分を恥じた。無許可でイベント(大方顕あたりの発案だろう)を行っている以上、没収するのは吝かでないが、そこに私情が混じるとなると、些か問題ではないだろうか。
「ねえ大和くん、それ返してくれないと困るの。それがないと『Trick or Treat』って言われた時に悪戯されちゃうんだから」
 逡巡する大和に、恋はずいっと手を差し出す。大和は籠をその手からあくまで遠ざけつつ、眉をひそめた。
「悪戯……ですか?」
「そうよ。大和くんは私がみんなに悪戯されてもいいってわけ?」
 頬を膨らませた恋だが、大和の顔が茹でたように真っ赤になるのを見て、小首を傾げた。
「? 大和くん?」
「あ…」
 わなわなと肩を震わせながら、大和はくわっと目を剥いた。
「貴女は何という危険なイベントを…!」
「いや、危険ってほどじゃ……ほら、悪戯っていってもくすぐったりとかその程度だし……って、わっ、ちょっと大和くん!?」
 大和は籠を取り上げたのとは反対の手で恋の手を掴むと、まるで犯人を連行するように引いて歩きだした。
「どこ行くのよ!?」
「生徒会室です!」
 振り返った大和の耳はまだ赤く、まるで何か疚しいように、一瞥した恋の顔から恥ずかしげに視線を逸らした。
「お菓子を没収するより先に、貴女自身を没収する必要があるようですから」

――Happy Halloween!






2011/10/10 up
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