ルーエンのわくわく牧場日記


 ○がつ×にち はれ

 農場の一日は夜明け前から始まる。
「ウィース。あれ、ルーエンさん、もう起きてたんスか」
「当然だ」
 見習い学生の山瀬が眠たげに目をこすりながらやってくる。
「早いですね……あふぁああ」
「チッ」
 最近の若者はだらしない。だが文句を言っている間も惜しい。ハルピュイアの卵は夜明け前に収穫せねばならないのだ。
「おい、さっさと来い見習い」
「へいへーい」
「返事は一回」
「へい」



 鶏舎に行くと、辺りは暗く静かだった。
 ハルピュイアの卵を収穫するのは命がけだ。見つかれば天国行きのジェットコースターが待っている。あれはなかなかにスリリングだ。
「いいか、鶏舎に入ったら絶対に物音を……」
「ぶえっくしゅん!」
「あ」
 ばさささささーッ!!
「ちょっとちょっとなんなのさ! 人が卵生んでる横でくっちゃくっちゃわかめ食ってたら気が気じゃないだろ!? ああん!!??」
「すみませんわかめなんて食べてないけどすみません!!」


 次は牛舎の清掃だ。
「古い飼葉を掻きだして、新しいものと入れ替えていく。これぐらいはできるだろう」
「うわ……結構重労働ですね」
 見習いはうんざりした顔で熊手を持ち上げると、隅のほうにある湿った飼葉の山にざくりと突き刺し、ズルズルと引き寄せた。
「飼葉重ってうわあああなんか出てきたああああ」
「ああ、いい忘れたが飼葉の山にはたまにウァサゴが紛れていることがある。気をつけろ」
「注意遅ええええええ!」


 牛舎の清掃を終えてようやく朝食を迎える。見習いはすでに半死状態だ。まったく最近の若者はry。
「今朝の朝食は産みたて卵のふわとろオムレツに、クロワッサン、メインディッシュはA5和牛のレアステーキでございます。どうぞお召し上がり下さい」
「朝から重いなオイ」
「アガシオン…やはりお前の料理はうまいな」
「お褒めに預かり光栄でございますルーエンさま」
「聞いてねえし」
「デザートはヨーグルトのはちみつがけでございます。さて、私もご相伴にあずかってもよろしいでしょうか」
「ああ」←上の空
「では」




(間)(ボオオオエエエエエ)




 一日の締めは酒である。
「今日もよく働いた。ビールがうまい」
 縁側でジョッキを煽る。見習いの姿はない。きっと逃げ出したのだろう。労働とはかくも辛いものだ。明日また新しい見習いを手配せねばなるまい。この国の経済を活性化させるためにも、政府はもっとこうした第一次産業を援助すべきだ。
「そう思うだろうケット・シー?」
「言っちゃ悪いがアンタ、ビタいち働いてないだろ」
「ほーれ、かつぶしだぞケット・シー」
「ごろごろごろごろ……って、ハッ! おお俺を猫扱いするんじゃ」
「かつぶし」
「ニャーンニャーンニャーン」
 ちょろいものだ。
 酒と肴と男と使い魔。
 飲んで飲まれて飲まれて飲んで。
 そうして今日も夜通し晩酌は続き―――。



 農場の一日は夜明け前から始まる。



(エンドレス!)






2011/08/24 ソラユメ絵茶より





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