ピクニックにはお弁当を持って


 週末、僕は先輩とピクニックに行くことになった。といっても、シュバリエ島のなかだから、行くところは限られている。だが、そんなことはどうでもいいのだ。
「じゃあ、お弁当を作るわね」
 そう言ってにっこり笑った先輩はすんごく可愛くて、まるで新婚さんみたいだと僕は一人で浮かれた。真っ白いフリフリのエプロンをして、キッチンに立つ先輩。ことことお鍋が震える横で、玉葱を刻む包丁の小気味いい音がしていて。コンスはおいしいっていってくれるかしら、きゃっ!とかなんてやってる先輩を想像したら前屈みから戻れなくてしばらく困った。何にせよ、ずっとお父さんとふたり暮らしをしていたそうだから、料理の腕は保証付きだ。
「先輩、どんなお弁当作ってくれるのかなあ……」
 おかずのリクエストを聞かれたけど、先輩が作ってくれるものならなんでもご馳走です!なんて謙虚なこと言っちゃったから、どんなお弁当になるのか見当もつかない。
 いや、でも本当は中身なんてどうでもいいんだ。いや、そう言うと語弊があるな、別に綺麗に整ったお弁当だとか、味付けがどうとかっていうのを問題にしているわけじゃないってこと。要は先輩がこの僕のためだけに作ってくれたお弁当を持って、先輩とふたりきりでデート!そしてあわよくばあーんとか食べさせてもらっちゃったり食べさせてあげたりとか!そういう事が楽しくて仕方ないのだ。
「くふ…くふふふふ……くふふへへへへへへへへ」
 生徒会室でひとり書類整理(ポルトス先輩が逃げた)をしつつ、僕は期待に胸が膨らむのを抑えきれなかった。



 果たして、デート当日。
「コンス……コンスってば………!」
 誰かがぴたぴたと頬を軽く叩く。薄目を開けてそれが大好きなダルタニアン先輩だとわかり、僕はやに下がった。
「先輩……ふわ、おはようございます……」
 目をこすって起き上がると、窓の外は薄暗い。時計を見るとまだ四時過ぎだ。
「もう、先輩ってばこんなに早く起こしたりして…。そんなに僕とのピクニックを楽しみにしてくれてるんですね……ふへへ……でもちょっと気が早いですよう……」
「何言ってるの、コンス? もう夕方よ?」
「へ!?」
 僕は飛び起きた。先輩は怒ってはいなかったが、呆れたように僕の頭をなでつけた。

「え!? えええええええええええ!!??」
「疲れてたんだったら、無理してピクニックに連れてってくれなくてもいいのよ」
「そんなことないです!! っていうか嘘!? 僕寝坊した!?」
 っていうか寝過ごすにも程があるよ! 十二時間以上寝てるじゃないか!! いや、確かに昨夜はうきうきワクワク、ついでにゴニョゴニョやってたから寝るのはちょっと遅かったけど! だけど!
「はっ!」
 僕はふと思いいたって先輩の腕を掴んだ。
「先輩、お弁当は!?」
 すると先輩は残念そうな顔で言った。
「私ひとりじゃ食べ切れないから、ポルトスに食べてもらったよ」
「う…うわああああああ」
 僕は絶望に打ちひしがれた。なぜ! ああなぜよりによってポルトス先輩なんだあああああ!
「泣くほど楽しみにしてくれてたなんて……コンス、私嬉しい」
「先輩……!」
 微笑む先輩は天使のようだった。僕はベッドから飛び降りると床に手をついて頭を下げた。
「約束をふいにしちゃってごめんなさい」
「今度、またピクニックに行くときはまたお弁当作るよ」
「ありがとうございます先輩!! 先輩って、やっぱり優しいひとですね……」
 僕は先輩と手を取り合い、微笑んだ。
「今度は辛さ三倍で作るね?」
「?」



 あとから聞いた話、先輩の作ってくれたお弁当はタンドリーチキンサンドだったそうだ。そして欲張って食べたポルトス先輩はしばらく辛いものには手を出さなかったという……。
 僕は喜んでいいのかわからなくなった。
「でも大好きです先輩!!」







2011/08/23 up



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