雨のバースデー



「誕生日プレゼントは何がいい?」
 それは、五月も末のことだった。
 ストレートな問いかけに、俺も本音で返した。
「君」
 すると彼女は呆れた顔で、半眼になった。
「そう言うと思った……」
 げんなりする彼女に、追い打ちをかけてやる。
「俺といる時間を削ってまでバイトしなきゃいけないほど高いものをねだるつもりはない
よ?」
「!」
「大体、高校生のバイト代で買えるものなんて高が知れてるし」
 二年生に上がってクラスは成績順に別れたが、俺と彼女は相変わらず同じクラスで、学級委員をしている。それなのに一緒に下校できるのは週に半分くらいで、あとの半分は彼女がアルバイトのため、先に帰っている。
 一分一秒離れずにそばにいて欲しい、なんて束縛メンヘラ的願望は持ち合わせてはいない。けれど彼女は所謂カレシ・カノジョの意識が希薄で、付き合い始めた当初は意識していた俺のことも、徐々に特別な友達程度の認識に移り変わっているような気配がして、最近少しつまらない。
「……具体的には?」
「これ以上具体的なのもないと思うけど、敢えて言うなら――」
「ストップ。ごめん私が悪かったです」
 彼女が眉間にしわを寄せた。そうやって、可愛くない顔をしている時の彼女が好きだ。かわいい時も、もちろん好きだけれど。
「少し考えさせてくれる?」
「いいよ」
 彼女が困ることをして、気持ちを確かめたがる。恋人を試す奴は総じてクズだが、自覚していてやる辺り相当なものだと自嘲した。




 気象庁は今日から梅雨入りを宣言した。窓の外はそれらしく、しとしとと五月雨が降っている。
「おはよう」
 教室に入ってきた彼女は、蒸し暑さに片手で顔を仰ぎながら、俺をみつけてぎくりとする。
「おはよう、亜貴ちゃん?」
「お、おはよう浩哉君」
 水滴がまばらについた鞄は、いつものサイズだ。他に荷物もない。
 それでいて、滑らかな頬はいつも以上に赤いのだ。
「大丈夫、この雨なら大抵の音は紛れるから」
「何の話!?」
 真っ赤になって語尾を跳ね上げる彼女に向かって、俺は一番いい笑顔を向けた。
「放課後が楽しみだね?」









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