白線のラブレター


 雨の翌朝は空気が冷たい。布団に丸まっていたあかりは、けたたましい目覚まし時計を殴って止めた。
「あと5分……」
 言いかけたところで、2個目の目覚ましが鼠マーチを響かせる。それを黙らせたところで、第三弾がやってくる。
『わはははは!! わははははッ!』
 恐ろしいアラームを鳴らす沢登手帳を這って止め、計3個の目覚ましにようやくあかりは目を覚ました。
 今日はは風紀の当番だ。眠い目を擦りながら階下へ下りると、父の東吾が味噌汁の葱を刻む軽快なリズムが聞こえた。
「お父さん、おはよ」
 声をかけると、東吾はいつもの穏やかな笑顔で振り向いた。
「おはよう。珍しいね、あかりが一番なんて」
「うん……今日風紀の当番なんだー」
「そうか」
 東吾は頷くと、刻んだ葱を味噌の香り漂う鍋にさっと投入した。今朝の具は豆腐と油揚げと葱のようだ。
「あかり、ついでに新聞をとってきてくれるかい?」
「はーい」
 ポストから新聞を取って戻ると、弟のふみが制服を着て朝食を食べていた。
「ふみ、いつの間に」
「さっき。つか早起きしたってのんびりしてたら遅刻するぞ」
「うるさいなー、わかってるもん」
「わかっているなら話は早い。行くぞ西くんッ!!」
「沢登先輩!?」
 唐突に居間の窓が開き、飛び込んできたのは沢登だった。
 つき合って以来、迎えに来るのがデフォルトだが、今朝はまた随分早い。
「先輩、まだ私ご飯食べてな……」
「はあああぁぁ…………ふんッ!!」
 沢登は飛び出した生温いウィダーインゼリーをあかりに押し付けた。
「ならこれで済ませたまえッ!」
「ええー」
 抵抗虚しく、あかりの体はいつものように沢登にひょいと担ぎあげられた。
「ではふーみん、お父上、ごきげんようッ!!」
 はためく沢登のスカートから、白い粉が散る。残されたふみは盛大に咳込み、目をしぱしぱさせた。
 きな臭いような独特の匂いの招待に気づき、慌てて食事をかばう。
「何で朝からチョーク塗れなんだよ、あの人……」
 つけっぱなしのテレビでは、笑顔の可愛い女性キャスターが、フリップを片手に言う。

「今日はラブレターの日ですよ。皆さん、たまには大好きな人に手書きのラブレターを送ってみてはいかがですか?」








2013/05/23 up



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