SWEET SWEET FLOG HOUSE


 むかしむかし、ある森のはずれに、貧乏木こりの夫婦が二人の子供と暮らしていました。子どもの一人は男の子で名前を優希といい、もう一人は女の子で風羽といいます。
 ある年の事、夏だというのにひどい寒さがやってきて、畑の作物がすっかりかれてしまいました。
 ただでさえ貧乏な木こりは、その日に食べるパンもろくにありません。
 お腹が空きすぎて眠れずにいると、おかみさんが小声で話しかけてきました。
「おい、明杜。このままでは親子四人、とも倒れだぞ?」
「はーっはっはァッ!腹が減ったら豆を食えばいいんだぜ!」
「いや……お前はそれでいいかも知れないが子供達はダメだろ」
「よし、ここは思いきって、子どもを手放すぜ!」
「……なんだって?」
 おかみさんは思わず聞き返しました。
「このままこうしていてもみんなうえ死にしちまうだろ。それに獅子は子を千尋の谷に蹴落とすモンだって師匠も言ってたぜ!」
「いや、お前なら多分やっていけるだろうが……」
「細けェことはいいんだよ! とにかく明日、子供達を連れて行くぜ!」
 心配顔のおかみさんをよそに、木こりは意気揚々と言い放ちました。



 さて隣の部屋では子供たちがすっかり話を聞いていました。とっくに寝ている時間ですが、なにしろお腹がペコペコだったので寝るに寝られなかったのです。
 兄の優希はやさぐれた顔で呟きます。
「俺達、どうやら捨てられてしまうみたいだね……。まあ、うちの経済考えたら仕方ないのかもしれないけど」
「優希くん、泣かなくても大丈夫ですよ。私がついております
 妹の風羽は優希をなぐさめると、元気づけるように言いました。
「大丈夫って……君はまた無茶なことをする気じゃないだろうね」
「ご心配には及びません。たとえすてられても家に帰ってこれる、良い方法を考えました」
「……………」
 優希は心配でしたが、風羽が自信たっぷりにいうので任せることにしました。
 次の朝、まだ夜が明けきらないうちに、木こりが子どもたちを起こしました。
「お前ェら、今日は森へピクニックに行くぜ!」
 木こりはそう言って、小さな袋を一つずつわたしました。優希はそっと袋の口を開き、中身を確かめます。
「…………………豆だし」
「食事はこれっきりなんだから、食べたくてもお昼になるまで辛抱しするんだ。わかったかお前ェら!」
「御意」
「…………」
 四人はそろって、森へ出かけました。
 そのとちゅう、風羽は時々立ち止まって、自分の家を振り返ります。
「おい、風羽。どうしてそんなに立ち止まるんだァ?男らしくねェぜ!」
「はい、うちの家の屋根に白いネコが上がって、私にさようならしてるのです」
「それって十九波さn」
「いい子だからよそ見せず歩こうな、菅野?」
 美咲ちゃんに嗜められつつ歩くうちに、四人は目的の場所へやってきました。
 ここは、深い深い森の中です。
「さあお前ェたち、小えだをたくさん集めてくるんだ」
 子どもたちが小えだを集めると、お父さんが火を付けて言いました。
「寒くねェようにたき火にあたって待ってろ。俺と米原先生はこの近くで木を切っているからよ。仕事がすんだら迎えに来るぜ」
 二人の子どもがたき火にあたっていると、やがて少しはなれた所から、コツン、コツンと、木を切る音がしてきました。
 コツン、コツンと木を切る音は、お昼も休まずに続いていました。
 たいくつした子どもたちは横になると、いつの間にかぐっすり寝込んでしまいました。
 そのうちに火が消えて寒さにふるえながら目を覚ますと、あたりはすっかり暗くなっています。
 ですが木を切る音は、まだ続いています。
 さびしくなった二人は、音をたよりに行ってみました。
 するとそれは木を切る音ではなくて、えだにぶらさげた丸太が風にゆられてぶつかる音だったのです。
「戸神先輩、米原先生」
 二人をよんでみましたが、なんの返事もありません。優希は、諦めたような虚ろな笑顔を浮かべました。
「はは……俺達、とうとうすてられたんだね」
「広瀬くん、ご心配には及びません。こんなこともあろうかと、目印を残しておきました故」
「目印って」
「これです」
 風羽がさっと取り出して見せたのは、昼に残したパンのかけらでした。
「これを拾ってゆけばお腹もいっぱいになり家にも帰れる寸法です」
「そんなの虫とか鳥にとっくに食べられてるよ」
「! なんと」
「っていうか菅野さん、ガチ拾い食いするつもりだったんだ……」
 優希はため息をつくと、ポケットから白い小石を取り出しました。
「俺がこれを目印において来たから、月が出るまで待とう」
 やがて月が出ると、足元が明るくなりました。
 すると、どうでしょう。
 優希が落としてきた白い小石が、月の光にキラキラとかがやきはじめたのです。
 二人はそれをたどりながら道を歩きました。
 ――――ところが。
「……あれ?」
 目印の小石が途中でなくなっているのです。月は森を明るくてらしているのに、目印はひとつも見あたりません。
「なんと、パンがひとかけらもありません」
「いやだからパンは無理だから。けど、おかしいな……小石までなくなるなんて」


 一方、その頃の森の家では。
「……明杜、お前何を持ってるんだ?」
「なんだかピカピカしてる石たくさん落ちてッから、拾ってやったぜ!」
「……あー、烏だもんな―」
「烏じゃねェぞ、先生! 烏天狗だ!」


 さて子供達は途方に暮れました。
「どこへ行けばいいんだろう?」
 二人はあっちの道、こっちの道と、ひと晩中歩きまわりました。しかし、森から出られるどころか、どんどん奥へとまよい込んでしまったのです。
「む……このままでは遭難してしまいます」
「もう十分遭難してるよ!」
 呑気な風羽にツッコんだ優希は、ふと暗い瞳で俯きました。
「俺達、ここで野垂れ死にかな……」
 その時、どこからかきれいな白い小鳥が飛んできて、二人の前をピヨピヨ鳴きながら、おいでおいでと尾っぽをふりました。
「おお、広瀬くん!」
「ああ、あれに着いて行……」
「あれぞ天の恵みです。焼鳥にいたしましょう。狩ってまいります」
「菅野さん!?」
 風羽が近づくと、小鳥は慌てて飛び去って行きます。
 小鳥はその小さな家の屋根にとまっていましたが、二人が近づくと姿を消してしまいました。
「む。見失いました」
 眉を曇らせたのも束の間、風羽か顔を上げて形の良い鼻を動かします。
「何やら、良いにおいがします」
 匂いにつられるままに家に近づいた風羽は、目をキラキラと輝かせて広瀬を振り返りました。
「広瀬くん、見てください。この家、おかしで出来ています!」
「うわー…見てるだけで胸やけしそう」
 おどろいた事にその小さな家は、全部がおかしで出来たおかしの家だったのです。
 屋根のかわらが板チョコで、まわりのかべがカステラで、まどのガラスが氷ざとうで、入り口の戸はクッキーと、どこもかしこもおかしでした。
「食べても良いのでしょうか」
「いや、明らかに罠だからね?」
 するとクッキーの戸が開いて、中からミニスカ眩しい学園アイドル、水城一陽が出てきました。
「一陽ぃ、ちょ〜退屈だから一緒に遊ぼ? 家の中にはコレより全然美味しいお菓子もあるょッ☆彡」
 それを聞いて二人は顔を見合わせました。
「いや、結構です」
「断るとか一陽意味わかんなーい」
「いや、ですから」
「ええい、まどろっこしい!」
 一陽は態度とスカートをばさりと翻すと、白い神官姿に変化しました。
「人間の分際で、僕に刃向かうとはいい度胸だ」
 なんと一陽は、妖怪だったのです。
 白い小鳥で子どもたちをおびきよせ、おかしの家をおとりに待ちぶせていたのです。
 朝になると、一陽は風羽を大きな鳥かごに放り込んで、戸にかぎをかけてしまいました。
 それから、広瀬をたたきおこして、
「いつまで寝ているんだ! さっさと水をくんで、うまいごちそうをこしらえるんだよ! 主様に食べさせて、力を取り戻して頂かなくては」
と、どなりつけました。
 かわいそうに広瀬は、風羽を太らせる料理を作らなければならないのです。
 しばらくたったある日、一陽は風羽を入れた鳥かごにやってきて言いました。
「どうですか主様、少しは思い出していただけましたか? さあ、指をお出し下さい」
「水城先輩、私は先輩の言う『主様』ではありません」
 一陽は物分かりが悪いので、あまりよく人の話を聞かなかったのです。
「ああ、まだ力が足りないのですね。もっともっと料理をふんぱつしなくては」
と、言いました。
 しかしいくら料理をふんぱつしても、ちっともききめがありません。一陽は、とうとう待ちきれなくなりました。
「ああ、もうがまんが出来なません。記憶がなくてもかまいません。今すぐ月宿池に入って、この地を浄化してください。さあ人間、急いで大なべに水を入れな。水を入れたら、火をたくんだよ」
 悲しい事に、広瀬は風羽を生贄にする儀式のために、火をたかなければなりません。
 広瀬は、苦悩しました。
(こんな事なら、森の中でオオカミに食べられて死んだほうがましだ。それだったら、彼女といっしょに……いや、彼女の場合オオカミに会っても倒しそうだよな)
「おい人間! なにをぐずぐずしてる!?さっさと火をたかないか!」
 一陽が銅鏡を磨きながらどなりますが、いくらどなられてもてきぱきと出来ません。
(なんとかしないと……とりあえず時間稼ぎだけでもできれば……)
 広瀬がいつまでものろのろやっているので、一陽はすっかり腹を立てました。
(やはり人間は役立たずだな)
 ちょうどパン焼きがまの火が燃えていたので、一陽は広瀬に言いつけました。
「ほかの事はいいから、パンが焼けるかどうか、かまどの中へ入って火かげんを見て来い」
 一陽は広瀬をかまどで丸焼きにして、頭からガリガリ食べるつもりだったのです。
 広瀬は、すぐにそれに気がつきました。
 そこで、わざと首をかしげると、
「かまどには、どうやって入るのかわからりません」
と、言いました。
「本当に、お前はバカだな。こうやってちょっと体をかがめ……」
(今だ!)
 すると広瀬は、一陽を力まかせに後ろから突き飛ばしました。
「うわぁぁぁーー!」
 かまどに転げおちた一陽は、カミナリが落ちてきたかと思うほどの閃光をほとばしらせると、蒼いカエルの姿になりました。
 広瀬は、鳥かごに閉じ込められた風羽のところへかけよりました。
「大丈夫、菅野さん」
「ありがとうございます、広瀬くん」
 風羽はにっこりして鳥かごから出ると、かまどに突っ込まれて弱っている青カエルを抱き起こしました。
「大丈夫ですか、水城先輩」
「菅野さん!? 君、わかってるの? そのひとのせいで俺達、殺されかけたんだよ!?」
「そうだ! 人間に情けなどかけられたくはない。さあ殺せ!」
「お断りいたします」
 風羽は凛として言い放つと、青カエルの目を見つめて言いました。
「どんな目的があったとしても、お腹をすかせてさ迷っていた私達を助けてくれたことには代わりません。私は主にはなれませんが、友達にはなれると思います」


 こうして森の奥のおかしの家の住人達は、にぎやかに楽しく暮らしましたとさ。


 めでたし、めでたし。








2014/05/11 up



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