レイニー 雨に真っ先に気づくのは馬鹿のしるし、なんて誰かが言っていた。 きっとそれは空ばかり見上げているからなのだろう。なんにもないと、その人が思っている場所を。 アジュコは貰ったばかりの野菜を両腕に抱えて、空を仰いだ。湿気の匂いがしていたから、もうすぐ降るとわかっていた。 ―――ポツリ。 狙い澄ましたようにその鼻先に雨粒が落ちてくる。 河原へ向かうアスファルトの道に、ポツ、ポツリと黒点が増えていく。 「おい、ボーッとしてンなクラゲ。行くぞ」 「あ、うん」 黒猫に促され、野菜を抱え直す。ほしほから貰った、今週のごはんだ。規格外だというキュウリやカボチャはどっしりと重たく、みずみずしい皮に落ちた雨粒がパチンと撥ねる。 彼は雨男で、イベント毎では晴れたためしがない。だが困りはしなかった。晴れていなくとも、大抵のイベントは熱や体調不良で行けなかったからだ。 そんな話をしたのは確か、彼女が自分を雨女だと言っていたからではなかっただろうか。 次第に強くなる雨粒を、くるくる回る触角で跳ね飛ばしながら、しかし前から吹き付ける雨には無力で、両目に向かって降ってくる水滴に何度も瞬きする。 (鰤さん) 草原の向こう、雨に煙る黄色いテントが見えてくる。 (今、君は誰といるんだろう) 草いきれを強く感じる。 雨が嵐を連れてくる。 2012/08/25 up back |