トラブルメーカー カキ――――…ン! 小気味良い音が青空に白い放物線を描く。 「にゃはははッ! ホームラン!」 バットを放り捨て、両手を挙げてホームへ突進する制服姿の少女の向こうで、ほしほはグローブの腕をいっぱいに伸ばした。 これを取れなければ逆転負けだ。 「オーライオーライ…………げ」 しかし、打ち上がった打球はほしほの頭上を遥かに越え、ガシャーンとけたたましい破砕音を響かせた。 「!?」 マズい空気が流れ、ホームに滑り込もうとした少女がピタリと足を止めた。沸いていたグラウンドが一瞬にして静まり返る。 「うーわー……これはマジいっちゃってる系?」 命中した先は、不運なことに校長室だった。割れた窓にそっと近づき、恐る恐る覗き込む。幸か不幸か、校長は不在のようだった。デスクには大きなガラス片が散乱し、もし校長が座っていたら流血の惨事である。 「うわ……派手にやったな……」 「だ、大丈夫ですかほしほくん!?」 駆け付けてきたのは、一緒に野球をしていた綾瀬とアジュコだけだった。 「他の連中は?」 ほしほが尋ねると、アジュコがぽよぽよと眉を下げる。 「あう……逃げちゃいました」 「心配すんな、メンバー覚えてるから」 カッチリと綾瀬が言い、深いため息をついた。 「弁償だな、こりゃ」 「なぁ、鰤は?」 「職員室直行」 流石は学校一のトラブルメーカー、対処の仕方をわかっている。しばらくすると、担任の森本先生を連れて、少女が戻ってきた。 「お前ら、派手にやったなぁ……」 惨状を見渡し、森本先生はがしがしと頭を掻いた。 「とにかく、このガラスを片付けよう。綾瀬、用務室行って軍手借りて来い。他は教室から掃除用具とバケツだ」 「はーい」 一同、森本先生の指示に従って、粛々と片づけをする。 「ガラスの弁償代は全員で折半な」 「ガラスって1枚いくらすんの?」 「工事費込で一万ちょっとかな」 「うへぇ……」 さすがに落ち込む少女の肩を、森本先生は慰めるようにたたいた。 「気にするな。昔はもっとひどいトラブルメーカーがいたからな」 「これ以上ってどんだけwwwwwwwwwwww」 「うん、先生がこの学校に教育実習に来ていた頃のはなしだけだけどな、その実習の期間中に少なくとも三回は風紀委員会室のドアを壊していた猛者がいた」 「ちなみに教育実習って」 「2週間だな」 「…………」 その頃のBBS。 「はっくしょーい!」 「どうしたの厳馬。花粉症?」 「うむ、誰かがきっと噂しているのだよ」 「強がらなくても、アレルギーは体質だから仕方がないんだよ?」 「違うといっておろうに。ふ、ふえっくしゅん!!」 「ほら!」 「なんで嬉しそうなんだ」 「え、俺アレルギーないから。観察対象?」 「貴様を排気ガスとスギ花粉の楽園へウェルカム強制ご招待だッッ!!」 2014/07/09 up back |