とある秘密倶楽部への取材

 今回のインタビューは、今や組織内を席巻するまでにその会員数を増やした”ポートマフィアちっちゃいもの倶楽部(略称 ちっちゃいものFC)”! 横浜裏社会を牛耳る非合法組織を夢中にさせるその実態とは?!


 ――改めまして青山さん、本日は宜しくお願いします。(※個人特定防止のため、仮名を使用しております。ご了承ください)
 こちらこそお願いいたします。私なんかが皆様にきちんとお伝えできるかは分かりませんが、精一杯勤めさせて頂きます。

 ――そう固くならなくても大丈夫ですよ。……えー、ではさっそくですが、倶楽部発足の経緯からお聞きしていこうと思います。発足したのは五年ほど前だそうですが?
 はい。あの忌まわしい龍頭抗争の事後処理などが粗方片付き、組織内がようやく落ち着いてきた頃です。どこか荒んでいた心に差し込んだ一筋の光……。それが中原中也幹部と北森鴻様です。若くして幹部にまで上り詰めた天才と、闇組織に輝く一粒の宝石……。そんなお二人が互いを思い合い、愛し合っているのですよ。これ以上に尊いものなど、この世にありましょうか……。寄り添う彼らの姿を目にするだけで、ささくれ立った心は自然と穏やかに、そして日々の活力が漲ってくる……。初めは数人がひっそりと楽しんでいたようですが、次第にその素晴らしさに気付いた者たちが集い始め、今に至るというわけです。

 ――なるほど、そういう経緯が。倶楽部には誰でも入れるものなんですか?
 現在は会員の推薦や紹介がなくては加入できませんが、お二人への熱い思いがあればいずれその道が開けるでしょう。かくいう私も、同じ部署の先輩からお声をかけていただいた身です。先輩には今でも感謝しています。

 ――独自の採用基準がある?
 そのようです。興味本位の俄かが沸かないようにという配慮ですね。懸命な判断だと思います。

 ――随分と二人を神聖視しているんですねぇ。しかし、そんな彼らに”ちっちゃいもの”なんて、些か不躾のような気がするのですが……?
 不躾……? いいえ、滅相もございません。――時にあなた、誰が好きな芸能人はいらっしゃいます?

 ――え、ああ、はい、一応。
 では、その人が突然目の前に現れたら、あなたどうなさいます?

 ――え、そ、そうですね……。とりあえずサイン貰うかな。いや、それとも名乗った方がいいのか? いやでも、近づく勇気があるかな〜。ううん……、ちょっと難しいですね。
 そうでしょう。本当に好きなものや愛らしいものを前にすると、人間の語彙力や思考力など宇宙の彼方に飛んでいくということです。

 ――はあ、なるほど。ちょっと分かってきた気がします。……では、倶楽部の活動内容は?
 お二人の麗しい日常風景や愛らしいお姿を会員内で共有し、必要とあらば命を賭してでもお守りすることです。情報共有の方法としては月一で出る会報の他に、会員専用のグループチャットがあります。会報にももちろん写真は載っていますが、こちらは動画も見られますし何よりリアルタイムのため、とても重宝しているのです。しかも他者の反応も逐一見ることができますから、さらに結束も強まります。……そういえば最近、お二人へ邪な感情をぶつけようとする不届き者がおりましたが――うふふ、今どうしているのやら。……あら、申し訳ありません。余計なことを言ってしまいました。

 ――い、いいえ、お気になさらず。写真に動画ということですか、ちなみにそれって盗撮には当たらないのでしょうか……?
 私たちの活動は、お二人の素晴らしさを数多くの方に知っていただくための、いわば布教活動です。あなたは布教のために全国行脚をする修行僧の持つ仏画を認めて、盗作だ盗撮だなどと騒ぐのですか? それこそいちゃもんではありませんか。盗撮などという下賤な犯罪行為と一緒にしないでいただけます……?

 ――わ、分かりました、すみません! 私が悪かったです! だから、その拳銃下ろして下さい! こちらの想像力不足です!
 ……いえ、こちらこそついかっとなってしまって、申し訳ございませんでした。続きをどうぞ。

 ――は、はい……。ふぅ……、では気を取り直して。月一で発行されるという会報は、どなたが作っているのでしょう?
 役員の方々です。

 ――役員、ですか。会員にも上下関係がある?
 基本的には平等ですが、規模が規模ですから、まとめ役はいないと組織として上手く機能しません。それに役員の方々は倶楽部の発起人でもあるので、非常に特別な存在なのです。

 ――ははあ、確かに。……役員の方の素性などは伺っても?
 ええ、構いません。女性だけで構成された鴻様の専属護衛部隊の方々です。彼女たちは我々会員の憧れの的。敵の強靭から鴻様を命がけで守ることは勿論、身の回りのお世話も全て彼女たちが一手に請け負っています。ですから体術や狙撃の腕はもちろん、鴻様のために栄養学やエステなど、ありとあらゆる技術、知識を習得したスペシャリストなのです。とはいえ中原幹部のお手隙の際やお二人の休日には、さすがにお離れしなくてはなりませんが……。しかし中原幹部に叶う敵など、後にも先にもいらっしゃいませんし、徒人が何人も固まっているより幹部一人がついていらっしゃるほうがよほど安全です。それにお二人の仲睦まじい様子をもっと拝見したいのは山々ですが、愛し合う恋人たちを邪魔したいわけではありません。そこは大人しく身を引いております。……ああ、それでも仕事の合間の小休止の時などは変わらず控えているので、その際のお二人のご様子がもう、愛らし過ぎて愛らし過ぎて……。うっかり任務中に見てしまうと、悶絶してしまって仕事どころではなくなってしまいます。そういう時は任務終わりのご褒美として、取っておくのです。ちなみに最近のお二人のご様子で私が一番萌えたのは、額をくっつけながら微笑み合う姿でしょうか……。写真からでも互いを思いやる気持ちが見て取れて、それだけでご飯三杯は食べられます。それからこれは年に一度の倶楽部忘年会で行われるビンゴ大会の一等だったのですが――お二人のキス姿や鴻様のご入浴シーンのブロマイドは悶絶ものでした……。ご飯一合は食べられます。

 ――えっ、入浴?!
 役員である護衛部隊の方々が、年に一度だからと大盤振る舞いをしてくださるのです。湯船に浸かる後姿だけですが、滑らかな白い肌と、それに映える黒髪。いつもは隠れた項がまたお美しい……。そもそもお二人とも、人前ではあまりイチャイチャしてくれませんから。どうやら執務室や自室では大変眼福なご様子なのですけれど。真面目でいらっしゃいますから、威厳や部下への示しとして我慢してくださっているのですね。我々としてはもっとこう……仕事のモチベーションを上げるためにも色々なお姿を見せて欲しいものです。

 ――いやあ、入浴姿か。それはさぞお美しいのでしょうねぇ……。僕は写真でしか見たことないんですが、鴻さんはこの世のものとは思えないくらいの美人でしたもんねぇ。うへへ、一度拝んでみたいものです。……おっほん、ええー、では最後に、何か伝えたいことなどがありましたら。
 実は会員の中には、いくつか暗黙の了解として認められた掟があるのですよ。

 ――ほう、掟ですか。それはどのような?
 それは――あなたのような邪心を持った人には相応の天誅を。

 ――ちょ、え、待っ……


ちっちゃいFC会報 No.63
〜若手会員へのインタビューより〜

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