酒に酔っ払った後って普段しないことしてるからほぼ全て黒歴史になる

トト | update : 2015.2.15
「劇場版銀魂 完結編・万事屋よ永遠に」の派生作品。「予定なんか(以下略)」で割愛した部分。お酒入りまくって走ってたならあったであろう一幕。


「あ、やべ。出る」
 そんな言葉と同時に後方で立ち止まる気配がし、三人は踵を返して彼を見やった。
 遠い目をした坂田銀時がくるりと背を向けて、その場にしゃがみこむ。―――――と、
「おええええええええええっ!!!!!」
 盛大な声を漏らしながら、何曜日だろうが少なくともゴールデンタイムに放送するにはあまりに汚らしいものを口から吐き出してのたうち回る。これを天人が見れば本当に彼が「白夜叉」と恐れられる侍なのかと質問攻めにするであろう。
 高杉晋助は溜息を吐き、蔑んだ目で銀髪の男を見下ろした。
「またか。既に二回吐いたってぇのに、てめぇの腹には今更何が溜まってるってんだ」
「………高杉」
「なんだよヅラ。本当のことだろうが。いつも俺に何かと説教垂れたがるが今回ばっかりは」
「まーまー、そがいな風にカッカせんと」
 坂本辰馬が豪快に高杉の肩を叩いて笑う。
 その隣りで桂小太郎も眉を顰めながら頷いた。
「銀時がこうなるのも無理のない話だ。昨夜は少々我々も浮かれすぎたとはいえ、もとはと言えばあの酒を持ってきた謎の男が一番悪い。ここは戦場だうぼぉえええええええええええええっ!!!!」
「てめぇもか―――――――っ!!!!」
 此方を向きながら吐瀉物を散らかす桂を怒鳴りつけ、頬につけられたモノを心底鬱陶しそうに拭う。当然の様にそのモノから異臭が放たれているので高杉の眉間にはいっそう深い皺が掘られることとなった。
「うぼおおおぉぉええええええええ」
 顔になおもかけようと明らかに前傾姿勢で嘔吐をする桂の目の前で、高杉が無言で刀の柄に手をかける。
「あっ、ゴメンナサイ、ちゃんとしゃがみます」
「あっはっはっは、いやー思い出してみぃ高杉! 昨夜はまさにどんちゃん騒ぎ。まっこと楽しかったのう!」
 高杉は頭を抑えつけて桂をしゃがませながら、こめかみに青筋を浮かべて辰馬を睨む。
 たしかに昨日の夜は、戦争のまっただ中であることも忘れて攘夷志士全員でこれでもかと騒いだ。酒があるのだからたまには備蓄した食料も節約と言わず少しばかり奮発してしまおうと、普段なら食べない量まで出してのお祭り騒ぎだ。決してまだ戦争に勝ったというわけでもないのに勝利の宴会宛らであった。無論、日々戦いばかりで気が滅入っていた者達が陽気になり、随分と活気づいたのは言うまでもない。……勿論、その場限りの、だが。
「次の日も戦うってことが分かってるのに何だっててめぇらは酒の飲む量を自分で調整しようとしねえんだてめぇらはアホなのかそんなこと今時猿でもできると思わねえか野生の本能ってやつでだその点お前らに至っては大丈夫だの何だのほざいてる割に結果を見りゃあこの様だ今日はよく分かんねえ軍勢のおかげで敵の数も減り大した戦いもしねえで済みそうだがもしそうじゃなかったらどうなってたと思ってるんだ鬼兵隊にまで酒を盛大に盛りやがっていい迷惑だ畜生」
「あっはっはっはっはっはっは! 高杉、おまん案外喋るんじゃのう、よう息がもった! 儂ぁ拍手を送るぜよげええええええええええ」
「だから何で俺の方向きながら吐くんだクソ野郎――――――!!!!」
 顔面に拳骨を入れると、辰馬は悲しいほどにあっさり後ろへと倒れ、ごろごろ転がりながら爆笑し、かつ嘔吐を続けた。非常に気持ち悪い。
「何なんだお前らはアレか! まだ酔ってんのか! さっきまでのちょっと良い感じの攘夷志士はどこ行ったんだふざけやがって!! つーか坂本てめえ前にも俺の顔にぶちまけやがっただろ殺すぞ!!」
「おおぉ……高杉くんがツッコんでるよ……俺達にすげぇツッコんでるよ……やべえ、成長を感じるおええええ」
「うるせぇ、俺の成長に吐き気催してるみたいな吐き方やめろ胸糞悪い。あとそんな成長いらねえ」
「あ、俺が言った途端にボリュームしぼった、おかえり」
 とりあえず吐き終えた銀時がよろついた様子で立ち上がり緩く手を挙げる。
 ぜえぜえと息を切らせて口許を拭い、不敵に笑った。
「俺復活」
「顔白過ぎだろ。顔も含めて白夜叉か」
「上手い」
「うるせぇ」
 黙らせようと思い、咄嗟に手が出たのが悪かった。高杉の拳は銀時の腹に見事にヒットしたのである。あ、と声を出したのは果してどっちだったのか。高杉が離れるより早く、白夜叉殿の頬が膨れ上がる。そして、
「うごおおおおおおええええあああああああ!!!!!」
「てめぇふざけんな死ね」
 後頭部から平手打ちをして銀時を倒し、彼を足蹴にしながらぎらついた目を向けた。
「いや今のどう考えてもお前のせいだからね!」
「二日酔いで吐き散らかす奴なんざ皆死ねばいい」
「全世界の二日酔いに謝れ!!!」
「そんな世界なら俺は壊すだけだ」
「高杉くん未来ネタ持ってきちゃダメ!!! 今ここ攘夷戦争の時代だから!!!」
 げは、げは、と息を乱しながらも嘔吐を続ける銀時の脇で、やれやれと立ち上がるのが桂だ。彼の顔に幾分血の気が戻ってきており、それから先ほどまでは顔色が悪かったのだなと気付く。銀時の促されるままに外へ飛び出してきて、不気味な赤い光を放つものを断ち切る。そのときはまさに「狂乱の貴公子」と呼ばれるが所以の空気を纏い刀を振るっていたが、一度緊張が抜けてから、具合の悪さが露呈してしまっていたようだ。
「しかし、高杉……お前はどうしてそんなにケロッとしているのだ。ケロッ」
「俺ぁずっとヤクルト飲んでた」
「高杉くーん、ちゃんと最後のツッコんであげて、ヅラ凹んでるから」
 びちゃびちゃという音を延々と零していた坂本が、不思議そうに変わらず吐き散らしながらも顔を上げた。
「んん? 儂と酒酌み交わしちょったじゃろがうげえええええ。たしかにヤクルト多めじゃったかもしれんけど、うげええええええ儂ぁ覚えとるぜよ、のうおえええええええ高杉うごえええええええ」
「てめぇらと違って俺はちゃんとセーブして飲んだんだよ」
「セーブして飲んで、どうして一緒になって俺達と寝坊するような事態になるんだ」
 桂の問いかけに、むっと高杉が眉間に皺を寄せる。

 たしかに、いつもと比べたら昨晩、自分も酒を飲んだ。

『高杉〜〜、おまん一人で何しちゅう!』

 だがそれは、できるだけ避けておこうと隅でヤクルトをちびちびと飲んでいたときに、完全に酔っ払った辰馬が絡み酒をしに来たからだ。最初はいつものように適当にあしらっていたのだが、どうにも酒の入ったハイテンションの辰馬を諦めさせるのは酷であり。かといって、全員がいつもよりもずっと楽しそうに酒を酌み交わしている中、何となく殴って気絶させるというのも気が引けて―――正確には、殴って気絶させた結果注目を浴び、銀時や桂の面倒な絡みが加速することまでを見越して―――少しだけ、という約束で酒を飲んだのだ。予定していたよりは結局少し多めに飲んでしまった記憶もあるが、それでもばったり倒れて眠ってしまうということも、吐くという失態を晒すこともない程度には抑えた。
 ――――が。
 さあもう満足しただろう、と再びヤクルトへと戻ろうと自分の席についたところで、トン、と背中に感じるもの。酒が入っていたからか、あるいは戦場でないことから少々緊張が解れていたのか。全然気配も感じていなかったので、あまりに唐突で驚いた。首だけを回して後ろを見れば、自分の背中にもたれかかって鼾をかき始めているのは、こともあろうか坂田銀時であった。

『おい………何してんだてめぇ』

 言ったところで、寝ている彼に声は届かない。今度こそ殴って起こしてやろうかと思ったが、そこへ今度は、立てていない方の右膝にぐっと重みを感じて、視線を下げてみる。そこでは桂小太郎がすーすーと真っ赤な顔で寝息を立てているではないか。何が悲しくて男の膝枕になってやっているのだろう。

『……ヅラ、重い。どけ』

 しかし、こちらもこちらで爆睡している。当然の様に声は届かない。

『んな!?』

 突拍子もない声をあげてしまい、つい苦虫を噛み潰したような顔になる。
 衝撃を感じて左隣を見やれば、自分の肩によりかかるようにして、ヨダレを垂らして鼾をかいているのは坂本辰馬である。

(……何だ、こりゃ)

 思わず自問自答に入りかけた。
 左肩によりかかって眠る辰馬。右膝を枕にして眠る桂。背中にもたれかかって眠る銀時。

(どうして俺のところに来る。てめぇらで騒いだんだからてめぇらで……)

 しかし、高杉に珍しくこのとき酒が入っていたこともある。加えて、酒で酔っぱらった三人に寄り添われてしまえば、彼らの身体が妙に暖かくて、こちらまでもがじんわりとあったかくなってくる。
 そのあたたかさと、周りの志士も含めた寝息とが作用したようで、次第に高杉の瞼も重くなっていった。


 ――――等と言う非常に腹の立つ事実など言えようはずもなく。高杉は舌打ちをした。
「成り行きだ。さっさと行くぞ。鬼兵隊もそろそろ準備させねえといけねえからな」
 さっさと歩き始めた彼に、桂も歩きはじめる。よろついた足で銀時も続いた。そして、辰馬も立ち上がり、三人の最後尾を歩く銀時追いかける。そして、
「おい、ちょう待ってくれ、儂を置いてかなうげえええええええ」
「何しちゃってんのお前エエエエエエエ!!! 飲みすぎだろ! どんだけ吐いてんだよ!」
 再び吐瀉物をぶっかけられた銀時が悲鳴を上げ、そして青い顔でまた口許を抑え。
「あ、やべ。臭いで腹が何かおかしおええええええ」
「貴様らいい加減五月蝿いぞ! いつまで吐いとるんだ!」
 桂が大声を上げるが、その口の端から零れているものをゲッソリとした様子で高杉が見つめ、
「………おい…てめぇ我慢できてねぇぞ」
 
 結局、自分達の陣地へと戻るまでに複数回、彼らは嘔吐を繰り返すこととなり、丸々一日は心の底から高杉は彼らを蔑視するに至った。





fin.


目いっぱいふざけました。「予定なんか案外なかなか決まらないからそれならいっそ成り行きでいい」の割愛部分です。お酒入れ放題で走ったら帰るとき絶対こうなるよねっていうお話。
やはり万事屋も攘夷も、みんなわちゃわちゃしてるのが好きです。
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