大樹に杠。それぞれ違った分野に秀でている二人は、千空の頼れる幼馴染みとして今も申し分なく力を発揮している。一方、私はというと千空たち三人と数千年来の友人という肩書を持ちながら、大した能もなく地べたを這いずり回り日々過ごしている。
このままで良いのだろうか、いや、良くない。

「というわけで私もいい加減親離れしようと思うわけです」

いつまでも金魚のフンみたく千空にくっついたままではいけない。大きな船を造るというからには、これから誰かと離れ離れになる展開になるのは流石に想像できた。聞けば、私が復活する前の千空は大樹とも杠とも別行動をしていたというではないか。
離れていても心は繋がっている。そういうモノに、私はなりたい。

「……その親というのは千空のことか?」
「コハク大正解!」

豪快に夕飯をかっ込むコハクのなんと勇ましいことか。毎日それだけ食べておきながらほっそりした身体が実に羨ましい。勿論、彼女が日々身体を動かし鍛錬しているのを知らないわけではないけども。

「なるほど。名前が決めたことなら応援はするが、その前に一度君の左隣を見てみたらどうかな」
「ん?……わ、千空」
「誰が誰の親だってェ?」

日中声をかけても迷惑なだけだろうし邪魔にだけはなりたくないと思っていたのに。気遣い虚しく、女子二人水入らずのディナーに堂々と入ってくるのが千空という人間である。

「いや、これは言葉の綾と言いますか……千空いつからいたの?コハクも言ってよ〜!」

食べるのに夢中だったからと肉を頬張るコハクは、やけに白々しい。そんなことより早く食べてしまえと前からも横からもつつかれて、私も焼き魚に齧り付いた。
それから程なくして食事を終えたコハクが席を立ち、私と千空だけがその場に残された。
三日ほど顔を見てないだけなのに、百年ぶりに会ったような気持ちだ。

「千空さ、もっとこき使っても良いんだよ?私のこと」
「あぁ?ドMにでも目覚めたのか」

そうではないけど。目が覚めたというのは、間違っていないような気がする。
千空にも誰にもこんなことは言えないけれど、復活液をかけてもらえたわりには、役に立ってる感が少ないような。

「なんかこう……もっと頼りにされたいというか」

大樹と杠だけじゃない。コハクにクロムにゲン。スイカもカセキのじいちゃんもそうだ。皆それぞれが活躍できる仕事を千空にお願いされている。
私は獅子王司くんに選ばれた人じゃないし、ただ千空の学校の友達ってだけだ。でも、ここにいるからには頑張りたいと思っている。だけど。

「ううん、やっぱ良いや。親離れするって言ったそばから変なこと言っちゃったね!」

実力がないのに張り切ってばかりの人間が一番組織の足を引っ張るのだと聞いたことがある。耳が痛かった。

「何勝手に空回ってんだか知らねえが、実際今ですら絶賛お役に立ってんだよ名前テメーは」
「いやいやいや食べてるだけだし」

答えを求めても、頬杖をつきながらただ私を眺めている千空がいるだけである。そんなにまじまじと見つめられると、穴があきそうだ。

「79時間14分……52秒ってとこか」
「え?」
「顔くらい毎日見せやがれ。それが名前にしかできねえ仕事だ」
「……え??」

食べる手が完全に止まったまま、見つめ合うこと数秒。彼の言葉を全て理解できたなんて到底思えないのに、体中の血液が顔に集まっていくのが分かる。

「千空!あの、か、肩とか揉もうか、それとも背中流す?」
「そりゃおありがてえ……って、だから俺はテメーの親じゃねえっつの」

そう言って、千空は私のお皿から最後まで取っておいたデザートを摘んで口に入れてしまった。

「つか背中流すとか意味分かって言ってんのか?」
「あーそれ好きなのに〜!私の楽しみが……ひどい……」
「聞いてねえな……」

次の日、千空に食べられてしまったデザートをご馳走されて、私は彼に相当甘やかされていたことを悟ったのだった。



2022.3.3


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