イベントごとは大事と言っている人を、そのイベントに巻き込んでも良いのだろうか。代用品と千空は言っていたけれど、折角作ったチョコレート。やっぱり好きな人に渡したい。
私の迷いと決意が混ざったチョコレートを目の前に差し出されたゲンは、珍しく目を丸くして私とチョコを交互に見ている。

「これ、俺に?」

ゲンに渡してるんだからゲン以外にいないのにと私は思っているけど、彼はそうでもなかったようで。メンタリストなんだから今の私の顔を見ればすぐ分かるだろうにと思わずにはいられない。

「まさか貰えるとは思ってなくて」
「嘘ばっかり。貰い慣れてる方でしょ」

元芸能人が何を言っているんだか。もしかして手作りはNG?しかし今は何でも自分たちで作らなければならない世の中である。

「……いらないなら返して」
「いやいやいや貰ったからには俺のチョコよ?大事に食べちゃう」

たとえ義理でも!という心の声まで聞こえてくるようだ。
普段私があまり素直になれないせいか、ゲンにも先入観というものが存在するらしい。もしくは、義理ということにしといて欲しいとか、そういう……一度考えると全部後ろ向きになりそうだ。

「そ、それ!義理とかじゃないから……本命だから!」

初めてこんなに勇気を出したのに、このまま何も伝わらなければ苦いだけの思い出になってしまう。そんなのは嫌だ。そう思ったら、想像より大きな声が出た。

「マジで?」

そこは「ジーマーで!?」じゃないの。

「そうだよ。迷惑かもしれないけど……ゲンが好きって気持ちには、もうウソつけない」

いつも素っ気ない態度でごめん、上手にお喋りできなくてごめん。ゲンは自分を嘘つきだと言うけど、私もそうだ。ずっとつれないような素振りで誤魔化して、本当のことは隠してきた。

「ごめん、今さら。ゲンが気付かないフリしてたのか本当に知らなかったのか分かんないけど……ゲン?」
「あ〜〜これ以上はちょっとタンマ」

メンタリストとしてあるまじき顔をしていると言って、ゲンは後ろを向いて蹲ってしまった。まるで私が泣かせてしまったみたいな光景である。

「そんな嫌だった?」
「……名前ちゃん鈍感すぎない?違う、嬉しすぎて死にそう」
「やっ、待って死ぬなら食べてからに……ってそれじゃ駄目か」

気持ちが通じたのに死なれては困る。羞恥と歓喜でヤケになりながら、私もゲンと同じようにしゃがんで彼の肩に額をくっつけた。

「死んじゃやだ。ホワイトデー、楽しみにしてるから」

私も、今の顔をゲンに見られたら困る。それだけ告げて今日のところは勘弁してあげることにした。
去り際に、地面に何かが落ちるような音がした気がする。


「オイ熱でもあんのかテメーは」
「ない!ないけどある!」
「意味分かんねえ……」

すれ違った千空がそのまま歩いた先に何があるのか、誰がいるのかなんて、今の私に考える余裕は1ミリもないのである。



2022.2.8


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