素直な人が多すぎる。千空率いる科学王国で長くもないが短くもない時間を過ごして抱いた率直な感想である。仕事をすればなんだかんだ褒めてもらえるし、信頼や信用といった類の好意を分かりやすく感じることもある。

「そりゃ好意的に思ってもらえたら嬉しいよ?嬉しいけど、なんかこう、自分が慣れてなさすぎて……」

このままではうっかり全員本気で好きになってしまう。こっちは真剣に悩んでいるというのに、横で聞いてるメンタリストは取り繕うこともなく爆笑している。全員好きになっちゃったら龍水ちゃんと同担だね〜、だなんて、そんなところで一緒にしてもらって良いのかよく分からない。

「俺だって結構好きよ?みんなのこと。もちろん名前ちゃんのことも、ジーマーで」
「出たッ!それ!」

好き。だなんて、何故こんなにもお気軽に口にできるのか。
幼い頃から、何かが好きだと人の前で言うことが恥ずかしかった。他人に面と向かって言われたこともないし、そもそも両親でからですら、そういう言葉を聞いたことがなかった。
あまり考えすぎると、ほじくるのに夢中になって戻ってこれなくなりそうだから、やめた。私の中で「好き」を口にすることは、ちょっと馴染んでない文化だったのだ。

「みんなフツーに言うよね。人に向かってそういうこと」
「名前ちゃんも龍水ちゃんの一歩手前まで言ったけどね、ついさっき」
「そ、そうだけど」

今さら自我が目覚めたような心持ちだ。良いことは良い、好きなものは好き。ちゃんと言ってもいいんだ。そういうものを殆ど誰にも与えていなかったような気がして、申し訳ない。

「千空ちゃんもさぁ、あるよねそゆとこ。気持ち悪ぃなんて言っちゃって」
「あ、それは……そうだね」
「でも実際のところは……分かるでしょ?」

他人のことを言えた義理ではないが、千空はちょっと天邪鬼だ。でもみんな、彼が仲間からの親愛を無下にするような、そういう捻くれ方をしていないのは理解している。

「名前ちゃんもそっちのタイプなんだよねぇ」
「つまり、」
「名前ちゃんが好き好き言わなくても、みんなちゃーんと分かってるってコト♪」
「…………なにそれ、恥ずかし」

せっかくの「好き」も、心のなかにしまっておいたら誰にも伝わらないまま。勿体ない。そういういかにも正しいことを、ゲンはここで言わなかった。ゲンのそういう、急かさない甘さが一等好きだと私は思った。

「まぁ、たまには聞きたいけどね。俺で練習しない?」

私からの「好き」ならいくらでも大歓迎だと、随分と調子の良いペラペラ男にそれを伝えるのは、当分先になりそうだ。



2024.11.9 いつか言えたら


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