地上の善きもの












 わだちの残った草を踏み締め、少年達の足音が響く。
「……だから殿下、それじゃあ少し甘すぎますよ」
「そうだろうか。言葉が通じない相手なのだから、そうきつく叱る必要もないと思うのだが」
「むしろ言葉が通じないからこそ、じゃないですか?」
「そうですよ、こちらが何と思っているかきちんと示してやらないと、あいつらだって動きにくいでしょ?」
「いや、俺は殿下の気持ちも分かるなぁ。馬相手に本気で怒る気にもならないし」
「しかし実際、鞭の痛みなんて効いているんだろうか。まったく素知らぬ顔をしているんだが」
「さては殿下の力が弱すぎるんじゃないですか」
「失敬だな、レグルス」
「だって、落馬しない程度にはきっちり手綱を握ってもらわないと困りますからね」
 小川の沿道。森の茂みから身を躍らせて、人通りのない薄茶けた乾いた道に、数人の少年達が連れ立って出てくる。彼らは口々に意見を述べながら、打ち解けた様子で学舎へと急いでいた。
 アルカディアには本来、大規模な常備軍は存在しない。男達は普段それぞれの仕事をこなし、有事の際、王の命に応じて武器を取る――それが代々の風習だった。
 深い山々に囲まれて周辺諸国から孤立していた時代が長かったせいだろう。勇猛さで知られる雷神の民は、その実、農民としても職人としても善良で穏やかな生活を営んでいた。
 しかし職業軍人が全くいない訳ではない。年々深刻になるラコニアとの軋轢を踏まえ、国境には見張りを兼ねる砦が築かれた上、貴族の子息を集めた王都の学問所でも、熱心に武芸を学ばせていた。
 それがこの少年達である。中心を歩く少年――レオンは乗馬によって汚れた衣服の埃を払い、仲間の顔を見渡した。
(いいものだな、同世代の友人とは)
 ここでは王子だからと甘やかされる事はない。だが、逆を言えば王子だからと倦厭される事もない。率直な少年達の意見を聞きながら、彼はその有り難みを噛み締めていた。
 学問所は古い神殿を改築したもので、中には学寮も造られている。生徒の数は二十人足らずと多くない。住みなれた宮殿を離れ、王都の中でも郊外に位置するこの学寮に日常生活の拠点を移すと、レオンは今までにない忙しい日々を送る事になっていた。これは父王の計らいである。
「ようやくブロンディスの力も安定したようだし、お前も半人前くらいにはなったろう。少し外で揉まれてこい。いつまでも王宮でぬくぬくとしていては、育つものも育たないからな」
 そうして十二歳になった息子を己の庇護下から追い払い、新たな場所へ旅立たせたのだった。
 学問所で生活するようになり、レオンはまず、幼年期はあれほどままならなかった手足が自由に動くようになっていた事に驚かされた。身長も伸び、今では身の丈ほどの槍もすんなり扱う事ができる。成長期も半ばを向かえ、ブロンディスの力が体に馴染んだと言う事なのだろうが、それにしても今までの体調不良は何だったのかと呆れたほどだった。
 レオンは勝負事を好む性格ではなかったが、学術であれ、武術であれ、仲間と共に競い合うのは楽しく感じられた。同じ年頃の少年達と学び舎を共にした短い二年間を、後になって彼は最も和やかな時代だったと回想する事になる。後にアルカディア三忠臣と呼ばれるレグルスも、この時にできた友人だった。
 レグルスは三歳年上だが、兄役と言うよりも愛すべき悪友と言った方が近い。闊達で調子のいい性格だが、その実、物事を把握する能力に長けている。はっきりとした取り決めがあった訳ではなかったが、王都から離されて世話役のカストルがいなくなった今、レオンの身の回りを見るのは自然と彼の役目になっていた。
「ねえ、もう馬なんていいじゃないですか、忘れましょ。ただでさえ次は面倒な討論の授業なんだから」
 からかい混じりに笑い、そうやってレグルスはあっさりと場を収めてしまう。少年達は素直に頷くと道を急ぎ、山裾にある学舎の門を潜っていった。
 敷地の中には学寮と鍛錬場も造られている。建物の中に入ると、彼らは教師を取り囲むように車座になり、思い思いの格好で講義を受けた。教師はおもむろに大理石の教示板に黒鉛石を当て、いくつかの図を描いてゆく。
 今日の命題は、雪山に取り残された場合について各自考えるところを述べよ、である。
 面子は自分、信用の置ける友人、それから山をよく知る猟師、それから女と子供が一人ずつの計五名。狭い山道なので一列になって進まなければならない――。
 さて、どのような順番で列を組み、下山するのが的確か?
「この問題に正解はない。最も優れた方法を模索する為の訓練なのだ。冬の山には危険も多い。それを踏まえ、自由に考え、議論して欲しい」
 頭の禿げ上がった教師は簡略化された山と人間の図を指し示しながら問いかける。少年達は先程と同じように口々に喋り出した。
「先頭は自分、次は猟師、それから女子供、最後は友人……これが無難じゃないか?」
「いや、しんがりは自分が務めた方がいい。全体を見渡せた方が状況を把握できる」
「それはどうかな。自分が場の指揮を執るのに、先頭を他に譲ると言うのも情けない話じゃないか」
「男が三人いるんだ。その間に女と子供を入れた方が、何があった時に対応できるかもしれない」
「いや、しかしそれじゃ――」
 レオンは仲間達の熱い議論を静観していた。聞いていると、どれも最もな気がしてくる。
 黙りこんでいるレオンに気付いたのだろう。レグルスが軽く微笑んで問いかけた。
「殿下はどう思います?やはり自分が先頭に立つ方が落ち着くもんですかね」
「私か?」
 考え中だったのだが、意見を出し合う場で言葉を濁らせるのは臆病と見なされて好ましくない。レオンは口を開きながら、実際にそんな場面になったらどうするか想像を巡らせた。
「……まず猟師に聞いてみるかな」
 ふっと出てきた返答に、レグルスが虚を突かれた顔をする。
「猟師に?」
「山をよく知る猟師ならば、このような状況を生き抜く知恵をあらかじめ知っているかもしれない。彼の意見を聞き、それから順番を考えた方が、最も安全だと思うのだが――」
 レオンは考えをまとめながら訥々と語ると、掴み出したその答えは場の空気をさっと塗り替えた。その手があったかと驚く者もあれば、それは禁じ手だ、考えを放棄したのではないかと感じる者もいる。自分ではなく他人に判断を委ねると言う選択は、そもそも議論の主旨から外れているのだから。
 レグルスがおかしそうに口元へ手をやった。
「ねえ殿下、残念ながらそれじゃ討論の訓練にはなりませんよ。でも確かに現実的なやり方ですね。いやぁ、ハッとさせられたな」
 誉められたのか何なのか分からない友人の感想だったが、確かにそれはレオンの人柄をよく表わした答えだった。自分の意見を形にする前に、まずは周囲に耳を傾ける彼の手法はこの頃から顕著だったようである。この逸話は教師も気に入り、王子の鷹揚さを誉める手段として広く自慢したようだ。

 しかし、父の方はどうもこの話が気に入らなかったようである。ある日ひょっこり学舎に顔を出すと、久々に狩りに出ようと息子を誘い、二日もかけて王都から距離を取った後、見知らぬ山中に彼を放り出したのだ。
「お前はなかなか賢いようだ。しかし、いずれ王として兵に命じるからには同じ事を自分ができねばならん。軽々しく他人を頼るな。まずは一人でここから下山しろ。徒歩でな」
 ついでに土産として鹿でも獲ってこい、と事もなげに告げて、父は馬の手綱を取るとさっさと帰ってしまう。
 置いていかれたレオンは最初ぽかんとしたが、父の言う事も最もだと諦めた。確かにあの答えは正論であれ、あまり王子らしくはなかっただろう。はっきりと方針を決められず他人に意見を仰いでばかりでは、いざと言う時に自分から動けまい。
(着の身着のままで下山、か……)
 ひとまず身につけている物を確認する。
 狩りの為の弓と、矢が五本。腰に下げていた小型の剣、水を入れた皮袋、食べ残しの干し肉、火を起こす為の道具が一式。
 折りしも季節は秋。食べ物には困らないだろうが、なにしろ見知らぬ山奥だ。下手をすれば遭難してしまう。その上で鹿を狩り、肉が腐らないうちに父の元へ届けなければいけない。人里に下りれば馬を借りる事はできるだろうが、それまでは自分の足で獲物を求めて歩き回らねばならなかった。夜も冷えるだろう。体調を崩さないよう気をつけなければならない。
 あれこれと考えを巡らせていると、ふと風の冷たさが肌に染みた。
(……久々だな、一人きりは)
 レオンは学舎に残してきた友人達を思い浮かべながら、外衣の襟を掻き集める。邪魔にならないよう伸びた後ろ髪をくくり、弓の弦を張り直すと、彼は赤く色づく山中を進み始めた。

 それから数日、レオンは山中をさまよい歩いた。
 太陽の位置でおおよその方角を確かめながら樹に印を付け、鹿の痕跡を探し、夜になると寝床を作って眠りに落ちる――。
 森は深く、山裾に近付くに連れて地面が柔らかくなっていった。足裏に感じる厚い落ち葉の弾力には、ふと底が抜け、どこかに転がり落ちてしまうのではないかと怖くなる。石造りの王都で育ったせいか、こうした剥き出しの自然はレオンには目新しく感じられた。
 昼の間、そこは生命の美しさで満ちている。風に揺れる梢の重なり、鳥の鳴き声、虫達が葉の下に潜り込む乾いた音――それらはレオンを脅かしはしない。彼らはあくまで自分の為に音楽を鳴らしているだけで、こちらの事など気には留めていないのだ。森の体内にそのまま取り込まれたような感覚だった。
 しかし夜になれば、森は悪意で塗り替えられる。狼の遠吠え、正体の分からない物音。日没と共に闇に包まれる山々は他人行儀な顔で頭上に圧し掛かってくる。火を焚けば周囲はかえって暗くなり、成る程、これが孤独かと子供ながらに納得した。星の光も枝葉に遮られ、なかなか地面にまで降ってこない。
 これほど長い間一人きりで過ごすのは初めてだったが、意外な事にレオンは心細く感じられなかった。
 勿論、慣れない土地で緊張はしている。しかし闇の中で爆ぜる炎をぼんやり眺めていると、むしろ人の目から逃れてほっとする心地さえした。
 時折、雉や兎を狩って食べた。余裕があれば干し肉にしたいところだが、乾かす時間も惜しかったので、軽く火で炙って食べる他、時には生のまま口に運ぶ。煮炊きの知識があれば料理もできたかもしれないが、鍋などの器具もない上、わざわざ鹿を探す時間を割いてまで食欲を満たそうとは思わなかった。
 弓も回収しながら使わなければならない。二本は狩りの際、折られて駄目にしてしまった。残るは三本。心許ない本数である。
 不思議な事に、なかなか鹿の姿は見つからなかった。足跡や糞は残されているのだからどこかで遭遇しそうなものだが、さっぱり気配が読み取れない。狩猟犬もいない今、頼るのは自らの経験と勘だけだと言うのに、探索は暗礁に乗り上げていた。

 草が踏み締められた一本の細い道を見つけたのは、その頃だ。
(獣道だろうか?)
 道を辿って行くと、下草は徐々に綺麗に刈り取られ、手入れがされている様子が窺えた。人里から離れた山奥だと思っていたが、どこかに集落があるのだろうか。
 やがて森が開け、小さな泉に突き当たった。傾きかけた琥珀の太陽が木々の隙間から覗き、ぽつぽつと木漏れ日が湖面に差し込んで揺らめいている。
 レオンは心が浮き立つのを感じた。水場ならば動物もやってくるだろう。久々に水浴びしてもいいかもしれない――。
 ほっと一息を吐いていると、泉の向かいで茂みが小刻みに動く。反射的に弓に矢をつがえそうになり、慌てて押し留めた。
 現れたのは幼い子供だった。腕一杯に落ち葉を抱えている。
 子供はレオンを見ると目を丸くさせ、ぴたりと動きを止めた。
 レオンは年下の子供との付き合いがなかったので、年齢を上手く見積もる事ができないが、精々五歳前後だろう。この辺の風習なのか髪の一部を染めて編み込んでいた。男の子だろうか、女の子だろうか。
「この辺りの子かな?」
 話しかけると、子供はびくっと顔を強張らせる。恐怖と疑惑に満ちた目付きに、自分が言葉も通じない蛮族になったような気がした。実際に子供からすれば見慣れない侵入者に違いない。弓を下ろし、精一杯優しい態度を心がけた。
「怖がらないでくれ。狩りの途中で通りがかっただけなんだ……君は水汲みかな?」
 子供は眉間に皺を寄せ、用心深く首を振る。すくっと姿勢よく立ちすくんでいる様子は探し求めていた鹿の姿を思い起こさせた。臆病さと洗練さが入り混じる立ち姿だ。
「……妹がここの月がほしいって、帰りたがらなくなるから」
 子供はもごもごと言葉を切る。
「月?」
「……水の。それで全然動いてくれなくなって」
「ああ――そうか。確かに鏡のような泉だものね。月が映れば、確かに綺麗だろうな」
「でも、それじゃこまるから」
 子供は腕をぱっと離し、抱えていた落ち葉を湖面へと放り投げた。
 断片的な言葉を繋ぎ合せ、どうも湖面の月に夢中になる妹をすぐに連れて帰れるよう落ち葉で覆い隠そうとしているらしい、と察する。久々に出会った人間なだけあって、レオンは健気な子供の無知に好意を持った。
「それは大変だな。泉は広いし、なかなか隠れてはくれないだろうに」
 親切心で話しかけても、子供は頑なに足元から落ち葉を掻き集め、せっせと泉に放り込む微笑ましい作業を続けている。手伝ってやろうかと思ったが、ふと考えを改めた。
「そうだ、次は妹にこう言ってごらん」
 レオンは地面に膝を付くと、子供を見据えながら泉に手を浸した。
「いいかい。こうして月を分けてもらうんだ。そして、これ以上零れて小さくならないように早く家に持って帰ろう、と言ってやればいい。これなら慌てて帰ってくれるんじゃないかな」
 実際に両手で水をすくい、椀になった部分に傾きかけた太陽が映っている事を指し示す。子供は対岸から疑り深そうな目を向けたが、迷った末、そっと両腕を湖面に差し込んだ。
 レオンの言う通りになるか確かめたのだろう。少しばかり目元の緊張が解け、晴れやかな表情になるのが見えた。
「どうかな。上手くいきそうか?」
「……うん。やってみる」
 どうやら気に入ってもらえたらしい。子供は小さく頷いて、照れくさそうに立ち上がった。人見知りをしているのか改めて目を合わせようとはしないが、ちらりとレオンの様子を窺っている。
 子供は片手を上げて横手を指差し、出し抜けに口を開いた。
「あっちで鹿を見たよ」
「え?」
「その弓矢に、殺されるのを待ってる」
 ぽかんとするレオンに構わず、子供はさっと駆け出して反対側の茂みへと消え去ってしまった。引き止める間もない。小さな姿は幻のように森の中へと吸い込まれ、遠ざかっていく足音だけがかろうじて聞き取れた。
(……巫女のような事を言う子だな)
 狩りをしている最中だとは話したが、獲物が鹿だとどうして分かったのだろう。それとも単なる偶然だろうか。
 残されたレオンは狐に摘まれた気分でその場に座っていたが、のろのろと立ち上がると、何かに導かれるように視線を横へと移動させた。
 子供が指差した場所はちょっとした獣道になっており、丈の高い白い花が重たげに両脇に垂れている。片手でそれを押しのけると、緩い坂道が山の尾根を取り囲むようにして伸びていた。慎重に足を進めると、しばらく進んだ所で念願のものと対面する。
 美しい獣――雄鹿。
 一瞬、レオンは先程の子供が鹿に姿を変えて現れたのではないかと思った。あまりに出来すぎている。
 鹿はゆっくりと草を食み、優雅に森の中へ君臨していた。暮れゆく夕日に照らされて、その毛皮は炉で溶かしたばかりの黄金のように見える。警戒心の強い生き物のはずだがこちらに気付く様子はない。
(本当にいるとは)
 レオンは目の前の光景に魅入られながらも、気配を消して姿勢を低めた。
 矢筒から取り出した二本の矢を右手に持ち、一本を弓につがえる。きりきりと弦を最大に広げ、放つ瞬間、顔を上げた鹿と目が合ったような気がした。
 矢は首を貫く。
 鳴き声らしい鳴き声はなかった。どうっと草の上に倒れ込む鈍い音。習慣に従って二本目の矢をつがえたが、それを使う必要がない事はレオンにも分かっていた。獣はあまんじて死を受け入れたのだ。
 茂みから体を引き起こし、そろそろと倒れた鹿に近寄る。
 仕事をやり遂げた安堵よりも深く、奇妙な物語の主人公になったような心地でしとめた獲物を見下ろした。
(……何だろうか、これは)
 背後を振り返る。子供がいるような気がした。しかし、あくまで気だけだ。薄紅の斜陽は徐々に醒めた色合いになり、森は何度目かの夜を迎えようとしている。
 レオンはこの一連の出来事に違和感を覚えながらも、鹿を担いで運ぶ為、新たな作業に取り掛かからねばならなかった。

 数日後、何度か道を見失いそうになりながら下山すると、レオンの身を案じた学友達が麓の街にまで迎えに来てくれていた。
 デミトリウスが彼らに連絡してくれたらしい。集まった中には懐かしいカストルの姿もあった。さすがに疲労が溜まっていたので、持参した鹿を彼に引き渡し、王都へ送ってもらうよう手配できたのはありがたかった。
 その夜はレオンの帰還を祝い、ごく身内で小さな宴を開いたが、親しい人々に囲まれて酒を飲んでくると山で感じた圧倒的な静寂は既に遠く、泉で出会った子供の事など、ますます白昼の幻想めいて感じられる。
「それで、山で遭難しても先頭を切れる男になりましたか?」
 肩を叩き、酔っ払ったレグルスが尋ねてきた。レオンは酒で濡れた唇を舐めながら首を傾げる。
「どうだろう。もしかしたら次は猟師の変わりに、託宣者を連れて行きたくなるかもしないな」
「……は、託宣?」
「いや、何でもない」
 レオンは微笑んで首を振った。戦の際、吉兆を占う者を連れて行く風習がギリシャにはあったが、あながち縁起だけの問題ではないのかもしれない。世界は神秘で溢れており、気紛れに無垢な姿を覗かせる。
 自分は今回それに出会ったのだ。世界の善きものに。
「あ、今の事は父上には内緒だぞ。また山に放り込まれては堪らないからな」
「うーん……何だかよく分からないですけど、次があるとしたら海じゃないですかね。そうしたら漕ぎ手として俺達も参加できるかもしれないし、面白そうだ」
 レグルスは訳が分からないなりに話を合わせ、からからと笑っている。この仲間と船に乗ったなら辛さよりも楽しさが際立つに違いない。レオンも頷いて、そうか海か、と他愛ない想像を巡らせた。
 海の上でも神秘は現れるのだろうか。あの広い海原で、やはり子供は月を隠す為に奮闘するのだろうか――。
 そう思うとおかしくて、彼は人知れず笑みを噛み殺すのだった。









END. 
(2011.04.11)

Moira発売から三年にして、ようやくレオンとエレフを接触させる事ができました。オフ本などでは書いていたんですが、何て長い道のりだったんだ……!


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