「どうしたエレフ、バイト帰りか?」

「レオン」

「乗っていきなさい。中は涼しいぞ」

「ああ。……はー、生き返る」

「今日も暑かったからな。ほら、シートベルトも締めなさい」

「分かってる」

「しかし、バイトにしては随分早いな」

「いや、実はバイトじゃなくて、家のクーラーが壊れたから業者のところに行ってきたんだ」

「む。それは由々しき事態だ。もう直っただろうか?」

「それがこの時期は同じような依頼が多くて、早くても家に来れるのが一週間後だと」

「……一週間……」

「絶望するだろ?」

「うむ、少し心が折れかけた。今のうちに車内クーラーに当たっておこうと思う」

「俺も。で、避難しようと思って、シリウスの家に寄ろうと思ったんだけど」

「彼の家は涼しいのか?」

「あそこ、地形的に風が通るし池の近くだから。冬は最悪だけどな、夕涼みにはちょうどいい。まあ……色々あって引き返してきたけど」

「色々?」

「いや、姉貴が先にいたみたいで。チャイムを鳴らす前に気付いたから良かったものの……」

「アメティストスが……?あ、ああ、成る程」

「夏場とは言え、窓は閉めておくべきだよな……。ったく、危なかった」

「……聞こえたのか?」

「…………砂吐くかと思った」

「……そうか」

「はー……仲が良いのは知ってるけど、普段は落ち着いてる二人だから、余計に今になってこたえる……」

「まあ、肉親のそういう部分を見るのは確かに気まずいな」

「レオンもか?」

「勿論だ。今から彼女を嫁にやる時の事を考えると気が重い。シリウスはいい男だし、昔からアメティストスを可愛がっていたが、いざ面と向かって交際宣言を聞いた時は、手元にバットがないか確認してしまったものだ」

「怖」

「お前だって似たようなものだろう。ミーシャとオリオンに関して」

「俺は先に拳で殴っといた」

「うーん、怖いと言うか、青春だな。ところでお前に聞くのもなんだが、あそこは実際にその……深く付き合っているのか?どうも普段のミーシャを見ていると、さほど進展があるようには見えないのだが。凄まじく清い予感がする」

「しょっちゅう二人で出かけてるみたいだけど……いや、うん、俺は認めない」

「そう意地になるな。そもそも自分の事を棚に上げて、ミーシャにだけ交際を禁じるというのはおかしいだろう?」

「た、棚に上げてって」

「そうじゃないか?」

「いや、交際とか、お前」

「……エレフ、私との事は一体なんだと思っている?」

「ばっ、運転中に何し、」

「では路肩に停めよう」

「え、あ、おい!」

「よし停めたぞ」

「アホか!」

「私にとってはクーラーが壊れた以上に由々しき問題だ。エレフ、ちゃんと目を見て答えなさい」

「乗り出すな!触んな!」

「こら、暴れるな」

「〜〜っ」

「エレフ」

「……わ、分かったよ」

「ん」

「………これでいいか」

「ふふ、頬か」

「悪いか」

「いや、お前らしくて大変好ましい。むしろ私のエレフはこうでなければ、と」

「何だよそれ……」

「しかし、好きだと言葉にしてはくれないのだな?」

「…………」

「まあ、今はこれで満足しておこう。お前の照れ隠しなど可愛いものだ」

「可愛い言うな。大体、男同士ってだけでハードル高いのに……」

「そうだな、お前には悪い事をしたかもしれない。だが、私はお前で良かったと思っているよ」

「…………」

「幸い、可愛い妹が二人もいる。跡取りはそちらに任せよう」

「……レオンは潔すぎないか?」

「そうか?」

「俺はまだそこまで度胸がある人間じゃない」

「ふふ、それでもここまで譲ってもらえたのだから、私はきっとお前に感謝すべきなんだろうな。ほら、頬を貸しなさい」

「っ、何で」

「お返しを」

「い、いや、いいから!」

「アメティストスとシリウスに倣えと言うべきか。やはりこういう事は、涼しい場所のうちがいい。ちょうど人気のない道で良かった」

「レオン!本気で怒るぞ!」

「どうぞ」

「あ、ちょ、ばっ……!」






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