こたつへ至る君へ至るこたつ








 東洋の神秘と呼ぶに相応しいのが、このコタツと呼ばれる品である。あの高慢な航海士も、たまには使える品を寄越すものだ。素晴らしい。動きたくない。この微睡みは、人を怠惰にさせるに違いない。
 ぬくぬくと身を寄せれば、それだけで睡魔が訪れる。段々と瞼が重くなってくると、背中に声が投げられた。

「ふふ、すっかりお気に入りね」
「……」

 猫背に丸めた身体には、彼女お手製である純白のちゃんちゃんこを羽織っている(お兄様にしてお父様は若草色のちゃんちゃんこを自慢気に羽織っていたが、あれはヴァルターお手製である)。
 何も言葉を返さなくても、満足そうに微笑んで隣に腰を下ろした。豪奢な飾衣が皺になるのも、気にならないようだ。手に持つ果実が天板に転がり、落ちる前に片手で掬う。その冷たさに眉を寄せるも、彼女は気にした様子はなく爪を立てた。

「コタツ?と言ったかしら。イドさんも素敵な贈り物をしてくださるわ」
「……」
「いつも貰ってばかりだから、此方もお返しを「その必要はないさ」えっ」

 微睡みの空気を吹き飛ばす早さの返答に、瞳を丸くされた。そうでなくとも、あの男は理由をつけて彼女を狙っているのだ。ポテンシャルを前にして既婚者は関係ないのだよと、宣うドヤ顔が憎たらしい。

「でも本当に、コタツはいいわ」
「……気に入ったのかい、エリーザベト」
「えぇっ。だって、メルとこんなに近付けるんだもの」
「ッ…………」

 何もそれは、コタツに入らずとも出来ることだろうに。そこまで頭を働かせつつ、口にすることはしなかった。それはあまりにも自然で、嬉しげな笑みを浮かべていたからに他ならない。いそいそと剥き続けた果実の一房をもぎり、此方に差し出してくる。

「はい、あーん」

 これが計算により紡がれた言葉であるのなら、僕はこれ以上に強敵な策者を他に知らない。口にした果実は瑞々しく、好ましい甘さが舌に残った。

「モウ、新年カライチャツイテンジャナイワ!」
「あぁ、エリーゼ」
「一緒にあたたまりましょ?」
「ッ……バカップルノ、パカーッ!」


卯年から辰年にかけて。







END.

あけましておめでとうございます!年越しから時渡さんからこんなサプライズ小話を頂きまして、こちらこそ本年もよろしくお願い致しますと土下座で頼みたくなりました!いちゃいちゃメルベトが可愛いのは勿論ですが、イドさんやエリーゼの外野具合も大好きです!



BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -