04


夏ちゃんの言っていたことが本当なのか、部員の間でその話で持ちきりだった。丹波さんが降ろされた“エース”という座の争奪戦が始まるのは必然。

よっこらよっこらとボールの入ったカゴを持ちながらグラウンドを目指していると地響きのような重い音が響いた。思わず持っていたカゴを落としてしまいボールがあたりに転がる。もう言葉が出なかった。
久々のミスに口元が引き攣った。最後にボールをばら撒いたのはいつだったろうかと考えながら拾っていく。


「ヒャハハ!何やってんだよ、お前!」
「…ばら撒きました」
「そんなの見りゃわかんだよ!」


笑いながらもボールを拾うのを手伝ってくれる倉持くんに素直にお礼を言う。だけど練習中の彼に手伝ってもらうのは頂けない。というか私が勝手に驚いてばら撒いたわけで、それを片付けるのは私の仕事でもある。


「あとは私一人でやるから、練習戻っていいよ」
「あ?何だよいきなり。人の好意は素直に受け取っておけよ!」
「わ、私の仕事だし…!」
「気にしなくていーんだよ!」


俺が好きでやってんだからよ。
そう言われても困る。練習に行ってくれ。頼むから。
結局最後まで手伝ってもらっちゃったし、カゴもグラウンドに持って行ってしまった。私の仕事…

***

いつもガヤガヤしている食堂も今日はいつになく静かだと思う。静かというかピリピリした感じ。
それにしてもごはんの量すごい。茶碗じゃなくて、どんぶりだよ。そんなことを思いながら自分の茶碗と周りのどんぶりを見比べながらひたすら食べる。


「隣、いいっスか?」
「ん、どうぞ」


ズズ…とお味噌汁を啜りながら視線を向ける。


「沢村…くん?」
「な、なぜ私の名前を!?まさかファ…」
「マネージャーなので。」
「あ…はい。」


沢村くんの言葉を遮りながら言うと大人しくなった彼。
高島先生がスカウトした部員。一番最初の寝坊であったり、遠投であったり…目立つ存在の彼の名前を知らない部員はいるのだろうか。むしろ知らない人いないんじゃないかな。


「お…お名前は…」
「2年の宮本彗です。よろしくね。」
「彗さん…!」


まさかこのタイミングで話を出来るとは思ってもみなかった。


「なんだお前、だいぶ食えるようになったじゃねーか!初日は吐いてたくせに…」
「!」


お互い黙々と食べていると御幸がやって来た。沢村くんの隣に座ったため、私 沢村くん 御幸という風に並んでいる。


「若いヤツは成長が速くていいねぇ!」
「るせっ!」
「ゆっくり食えよ。体によくねーぞ!」


沢村くんには悪いと思うけれど、御幸が沢村くんに集中している隙に失礼しよう。


「彗。何でまだ学校にいるのか知らねーけど、家まで送るから座ってたら?」
「!」


慎重に、それでいて素早く立ち上がろうとした時にまさか声を掛けられるとは思ってもみなかったから、ビクリと肩が震えた。少し浮かしてした腰をもう一度椅子に降ろす。
御幸はこちらを見ることなく箸を進めている。なんだろ…この感じ。隣の沢村くんもなんかそわそわしてるし。


「お2人の関係って…」
「幼馴染なんだ。私たち。」
「そ、そーだったんですか!」


いやあ知ってましたけどね!と笑う沢村くんに笑みが零れる。そして少し経ってから周りの異様な雰囲気に気が付いたのか、沢村くんが問いかけてきた。


「…皆静かだけど何かあったんですか?」
「聞いてないの?明日1年生のチームと2・3年生のチームで試合やるんだよ。」
「!」
「本来ならウチの1年目は体力作りがメインでな…1年からレギュラー選考なんてしねーんだわ。まあ、俺は別だけど。」
「…だけどこの間の試合で状況が変わったから」
「つーかそんな話、全然聞いてねーぞぉ!お…俺は!?俺は出れんのか!?俺は〜!」


沢村くんは私たちの話を聞くや否や立ち上がり、御幸の胸ぐらを掴み叫んだ。余程日頃の行いが悪いんだね…御幸。
すると1人こちらへやって来ると、失礼しますと言い御幸と沢村くんの間に無理矢理座り、その結果沢村くんの席がなくなってしまった。


「な…なんでこっちに座ってんだよ!向こう側空いてんだろ!」


叫ぶ沢村くんを完全に無視する彼…降谷くんは御幸に話しかけた。なんだか沢村くんがとても不憫に思えてきた。


「自分は明日…ここにいる誰にも打たせる気はありません…そしたら…俺の球、受けてもらえますか?」
「なっ…」
「!」


挑発ともとれるその言葉が気に障った先輩たちがテーブルに集まってきた。空気は最悪。


「おい、ルーキー。誰にも打たせねぇだと?お前…ここがどこだか分かってんのか?」
「中学出たばかりのクソガキがでけぇ口叩きやがって…」
「おもしれぇじゃねぇか、コノヤロォ!御幸に受けてもらいたけりゃ結果残してから言えや。」


そこまで過剰に反応しなくても良いのでは…と肩身が狭い状態で思っていると丹波さんの一言で周りが静かになった。
“プレーで語るしかない”
確かに監督にアピールするには良いタイミングだれど…


「(…多分、これが監督の狙いなのかな)」


降谷くんを相当意識している丹波さん。丹波さんだけじゃない。他の部員の闘争心を煽る…そのための試合なんだろう。


激情型シグナルレッド
(もう試合は始まっている…みたい)


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