09


夏の本線まであと2ヶ月。
練習前の監督からの言葉を胸に置き、仕事に励む。


「彗!Bグラウンドにボールの追加持って行って!」
「はいっ」


夏に向かって練習もハードになっていくためにマネージャーの仕事も勿論増える。部員の練習量確保するにはサポート等に入るのは当たり前なのだ。
中でもボールの追加は結構回数が多いと思う。汚れたものを綺麗に拭いたりすることもあるけど…
用具庫からボールの入ったカゴを持ち上げる。大きいし、重いので一人で持たされることはまずないけれど、私は一人で持てちゃうので意外と頼まれる回数は多い。

Aグラウンドで何やら監督が校長と教頭と話しをしているのが見えた。口を開けば“甲子園、甲子園”…そんな簡単に行けたら誰も憧れを抱いたりしない。努力だってしない。高校野球にとって特別な場所なんだもん。行けるのはわずかなんだ…
監督だって、そんなに言われなくって責任を感じているに決まっている。それをぐちゃぐちゃと…あ、なんか腹立ってきた。


「わ…分かってるんですか…あの人…今年、結果が残せなければ自分のクビが危ない…」
「失礼しまーす!」
「!」


去って行く監督の背中を見ながら悪態をつく彼らの間をわざと通る。突然のことに驚くのを横目に監督を追う。


「監督!ボールの追加持って来ました!」
「…Bグラウンドだろう」
「…あ。」



***



次の対戦相手の横学のデータをまとめていると隣に座って来た高島先生。


「お疲れ様です?」
「お疲れ様。毎回任せちゃって…」
「いいんですよー。好きだし」


そう笑いながら言うと少し表情が優しくなった先生。データをまとめたり、それくらいしか手伝ったりできないし。少しでも情報があればこっちに有利になるかもしれない。


「沢村くんにクリスくんを組んでもらったの」
「クリス先輩と?…いいと思います。」


誰よりも野球に詳しくて、誰よりも熱い。クリス先輩から学ぶことは多そうだし、何より“成長”できる。…沢村くんが諦めなければの話だけど。
部内でもクリス先輩を苦手とする部員は少なくない。うわさに尾ひれがついて一人歩きしている状態。あまり良い気分ではない。それでもちゃんと分かっている部員だっているわけで…


「なんか悔しいです」
「え?」
「あんなに凄い人なのに、分かってない人がいるのか悔しい…」


何も知らないくせに…
アドバイスをもらったりしている身としては実に悔しいを通り越して腹立たしい。握りしめている手が白くなる。
そして次の日の練習。叫びながらタイヤを引き走る沢村くん。


「1年経ったらテメぇ、卒業してんじゃねえか!そんなに俺が嫌いかぁ〜!」


そんな姿に思わずため息が漏れた。




真っ直ぐな平行線
(いつまでも交わることのない)


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