08


「で?沢村の奴、活躍してるか?」
「まあ、ある意味な」


倉持くんも御幸の隣に腰を降ろし、グラウンドを見る。私も視線をグラウンドに向ける。何やらマウンドで1年生が集まっている。作戦会議?


「俺は逃げも隠れもせん!全球ど真ん中だ!ガンガン打たすんで後はよろしく!」


そう叫び、高々と笑う沢村くんと打って変わり他の1年生は消失している。
試合が再開し、初球から打たれるも外野が深めに守っていたおかげでアウト。その後も守備に助けられ初の無失点。


「打者の手元で変化するムービングボールか。やっかいだな。」


哲さんの言葉に口元を上げる御幸。


「けど…まだまだ暴れますよ…あいつの球は。」
「なにぃ?」


挑発的な笑みを浮かべる御幸。
初めて2・3年生チームを無失点で抑えたことで序盤とはまるで別のチームのように盛り上がる1年生チーム。いいプレーが出ると盛り上がっちゃうよね。でもそんな雰囲気を作り上げたのは間違いなく沢村くんだ。そんな彼らの様子をじっと見つめている降谷くんの表情はかたく見えた。
2・3年生の球にも手が出せるようになったりと気迫が出始めた時、バッターボックスに立ったのは増子さん。


「ヒャハハハ!おもしれぇ!同室対決か!!ここまでの増子さんの成績どうなのよ?」
「絶好調だよ。3安打5打点…レギュラー昇格に向けて気合い十分って感じかな?」
「多分あの人は沢村の球質に気付いてる…この対決で沢村の実力が分かるだろーよ!」


多分だけど増子さんは打つ。理由なんかないけど…
御幸と倉持くんは何か笑顔だし…


「沢村ちゃん…俺は絶対レギュラーに返り咲くぞ!全力でこい!!」
「は…はいっ」


沢村くんは増子さんに対しても真っ向勝負のようでボールを放つも、キャッチャーが弾いてしまった。


「…なんで?」
「手元で急に変化するから取りづらいんだよ。あいつクセ球だから。」
「…横からだと分かりづらいね」


遠投では明らかに曲がったのがわかったけれど、今のは全く分からなかった…
スイングをコンパクトにしてボールが動く前にバットで叩きつけるつもりなのだろう。バットを短く持ってバッターボックスの一番前に立つ増子さんは、本当に沢村くんのあのクセ球に気付いているということ。
二球目はファール。ぶつかったネットが軋む。その様子に顔色が悪くなる一年生。流石元5番…冷や汗が背中を伝った。
沢村くんも仰天している様で口が開いているも、増子さんの真剣な表情を見て気を引き締めた表情でモーションに入る。


「ここで逃げてちゃエースにはなれねぇ」


沢村くんの言葉に驚く。


「っぉ…おおおおおらあっ!!」


放たれたボールは鈍い音を立てフェンスを直撃。詰まっていたにも関わらず力で強引に持っていきホームラン。


「はっ…完璧に力負けだな!こりゃああのピッチャーもダメージでけェだろ」
「…そうでもないかもしれませんね」
「あぁ?」


マウンドに立つ沢村くんは打たれても目の輝きは失っておらず、さらに輝いているように見える。その姿に流石に驚く純さん。


「…ふふっ」
「ん?どうした?」
「何だか頼もしいなあと思って」


この試合は29対1と2・3年生の圧勝という結果で終わったものの、沢村くんっは最後まで投げ抜いた。収穫が多い試合だったと思う。



変化していく
(きっといい方向に向かって行く。そう思えたんだ。)


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