フェアリ*ティル | ナノ


こ こ ろ と こ こ ろ


" In a town of the evening. "


夕方、アーサーからお使いを頼まれて何人かと一緒に市場へと出かけることになったのだった。死神を顎で使うとは、さすが王様よ、なんて笑ってもみる。いつもの大鎌は、街に行くには不似合いだと皆から言われて渋々置いてきた。その代わりに持たされたのは、バスケットだった。


「ふむ、ティタ。はぐれぬようにな」
「うん!この街は大きいから気をつけるね」
「ほほぉ、そんなに大きいのか?」
「すごーくすごぉーく大きいよ!」


小さな手が、ワシの手を掴む。買い物に行くぐらいであれば他にも適任はいるだろうが、多分アーサーのことだ。たまたま見かけたワシに声をかけたというだけなのだろう。他にも一緒に来ていたのは、カーネリアンにロビンフッドだった。本当にどういう人選なのかさっぱり見当がつかない。


「それにしても、よく分からない面子だね」
「わからない?」
「ワシが一番分からんのはアーサーかのぉ」
「ペリドッド、それは言い得て妙かも…」
「いいえてみょう?」


一つ一つの言葉を首を傾げては呟く。幼子に意味など分かるまいが、会話に参加できていることが嬉しいのか、終始笑顔である。

市場まで歩いて行くとやはり夕方は人が多く、どこもかしこもごった返していた。人の波に一人顔をしかめていると、ティタがだいじょぶ?と見上げてくる。「大丈夫じゃ」と笑いかけると、「良かった」とまた笑みが返ってきた。屋台もちらほらと見かけて、ロビンフッドがふらふらとそちらへと行こうとするのをカーネリアンに引きとめられているのが可笑しい。


「ふう、いっぱい店があるのう。アーサーは何を買って来いと言ったのじゃ?」
「うーんと、お兄ちゃんからメモをもらった」


ティタから渡された小さな紙片を受け取ると、「適当に目に付いたもの買ってきてくれ」とだけ書かれていた。ロビンフッドとカーネリアンも覗き込んで同じように苦笑していた。アバウトなのか、それともただ意味もなく、買い物をさせたかっただけなのか、真意を図りかねる。

まあいいか、と思っていると何時の間にかティタは、じーっとどこか一点を見ていた。三人でそろそろと同じ方向を見ると、何かの屋台のようである。繁盛しているのか、少し列が出来ていた。


「何だろ。見てこよっか?」
「ティタは、あれが気になるの?」


恥ずかしそうに頷いたティタの視線の先には、なんの変哲もないどこにでもあるフイッシュアンドチップスの屋台らしい。今は夕食の材料を買いに来ているので、買い食いをすると、夕食が食べられなくなるのではないだろうかと、そんなことが気になってしまった。


「帰ってアーサーに作ってもらえばよかろう?」
「いやいや、ペリドッド。外で食べるからいいんだよ。ねぇ、ティタ」
「あっ、…」
「ほらほら二人とも。ティタが怖がってるわよ」


カーネリアンが間に入って苦笑している。しかし、ロビンフッドの言うことも尤もであるからして、どうしたものかと考えてしまった。つんつん、と何度か手をつつかれて見ると、ティタはふにゃっと笑っていた。


「ふむ…うむ、どうしたらいいものか」
「じゃあ、こうしましょ。一つ買って、皆で分けるの。それなら量も少しだし、夕食も食べられるわ」


渋い顔をしていたワシに、にっこりと微笑んでカーネリアンが言う。ティタもほわっとした顔をして、ワシやカーネリアンを交互に見返している。頬が薄っすらと赤いのはきっと、興奮しているのだろう。


「喜び方が静かなもんじゃの」
「あははっ。じゃあ私買ってくるよ」
「ろ、ロビンちゃん、私も行くー」
「よしよし、おいでおいで!ティタ嬉しいね!」
「う、うん!ありがとう、ペリドッド、カーネリアン。ロビンちゃん!」


競争だ!と言って走り出したロビンフッドの後を慌ててティタが追う。


*


テーブルの上に並べられた料理は、シンプルなものでした。卵サラダにパンに、ジャガイモと玉ねぎで作ったスープです。食堂にいる人たちの表情はそれぞれ違っていて、私ももうなんと言っていいものやら分かりません。


ペリドッドたちと買い物を終えたティタが「はい!フェイ」といくつかの紙袋をくれたのは良かったのです。大体の食材はありましたので、何を買ってくるのだろうかとそんなことを話しながら帰りを待っていたところでした。アーサー様のところに駆け寄って、ああ可愛いなと和んでいたのもつかの間のことです。ペリドッドたちを見送った後、入れ替わるようにグィネヴィア様がやってきて、「アーサー!」と勢いよく厨房へとやってきました。

丁度夕食の準備をしかけていたところなので、あまりの剣幕に持っていたフライパンを落としそうになりました。けれども、小さいティタがいるせいかいつもよりトーンダウンしていたように見えました。一瞬、誰も言葉を発しなかったところにティタがグィネヴィア様の所に歩いて行きます。ハラハラしながら見守っていると、恐ろしい発言が投下されました。


「グィネヴィア様もお料理しにきたんだ?一緒に作ろ!」


かしゃーんと何かが落ちた音がします。確かラーンスロット様がスープを作ろうとしていたのですが、鍋を落としたのでしょうか。横にいたアーサー様が「やばいなー」とぼやいたのが聞こえます。何よりグィネヴィア様自身の顔色が珍しく変わっていました。

流石に小さなティタのきらきらした瞳に負けたのか、「そ、そうですわ…!」と意を決した様子でした。その後はまあ、説明するのも憚られるので割愛しますが、複数枚食器が割れたり炭化して何の料理か分からないものが出来上がったりしていました。阿鼻叫喚の地獄絵図とはよく言ったものです。


「だ、大丈夫だよ。今回はたまたまだって!な?」
「…アーサー…ご、ごめんなさい…」
「大丈夫だよ、グィネヴィア様!ティタも食べるから!」
「今、紅茶を入れたから。少し座って休むといい」


力なく肩を落としているグィネヴィア様に、皆が励ますように声をかけていました。ぐったりとした様子でラーンスロット様から紅茶のカップを受け取ったグィネヴィア様は、こくりと一口飲んで「次は頑張りますわ…」と言ったので、また周囲の雰囲気がさっと凍りつきそうになりました。


「いや、グィネヴィアの方が日頃からいろんなもの食べてて食材にも詳しいからさ。どっちかって言うと俺は試食してもらって意見が欲しいな」


さっと料理に取り掛かったアーサー様が、レタスをちぎりながらさらりと言いました。ティタやラーンスロット様も感心しているのが分かりましたし、何より私もこう言う時にはフォローが上手いなと感心させられました。カップを手にしたままキョトンとしていたグィネヴィア様もどことなくホッとした様子で「し、仕方ありませんわね!それでもいいですわ!」と、珍しく恥ずかしそうにしながら紅茶を一気に飲み干していました。


"こころとこころ"
Thanks title / reset∞



 ( 夕方の街で )
title / By myself.


In a town of the evening.


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