Small talk ; 小話
" Place where it wants to return. "
他の街にも、正直なところそんなに期待はしていなかった。出来れば何事もなければいい、それぐらいの希望を抱いて出かけたというぐらいだ。キャメロットに戻ってきて、自分の部屋に戻る途中、アーサーにばったり会った。何故か洗濯籠を抱えているので凝視してしまったが、本人は気にしていなさそうだった。
「おっ、帰ったかー。大丈夫だったか、モードレッド」
「ああ、特に何もなかったよ。…なんだその手」
「え、土産とかないのか」
「…あると思うほうがどうかしているだろ」
差し出していた片手を引っ込めて、冗談だよ、とからりと笑ったアーサーは少しだけ口を動かした。それを読み取ってなんとなく、申し訳ないような気にもなる。気にしないでくれと告げると、やはりアーサーは笑っている。自分がここにいるのは何のためか。友人たちのためにも、それを忘れてはいけない。質問を変えて他の人や街の様子を聞いていると、どうやら最近は何事もなく本当に平和そのものらしい。
「と言っても、二、三日ぐらいの話だけどな。天気も良かった!」
「…いいことだよ」
「そうだよなぁ。ありがたい事だよ。出来ればずっとこんな日が続けばいいのに」
そういうだけ言って、「手伝わされてるんだ、これ」と朗らかに笑って上の階へと行ってしまった。どこで洗濯物を干すのも勝手だが、あまり景観がよくないのではないかと思ってしまうが、考えている内に足音すら聞こえなくなった。早いな、と苦笑しながらちらりと上を見た。元々荷解きするほどの物は持って出ていない。部屋に戻ってさっと着替えて、また外に出た。
場内の廊下をぽてぽてと転がるように飛ぶその姿は、まるで木からりんごが落ちてきたようだった。きっとウィル辺りがいたら、ウィリアム・テルの話のごとく射掛けるかな、とそんなことを考えてふっと笑ってしまった。ブラックジョークにもほどがあったと一人反省する。
そのぽてぽてした生き物は、見たところどうも妖精らしい。この城の中にも何人か妖精がいるからか、いることも当たり前の存在になってきたのかもしれない。
たかたかと駆け寄って来て、妖精はにっこりと笑った。確かどこかで見たのに似ている気がするが、思い出せない。しばらく立ったまま見下ろしていたら、ぐいぐいと引っ張る。
「アーサーじゃなくて僕に用かい?」
「〜!〜♪」
「…間違えてはいないのかな」
ついて来いと言わんばかりに走っていくその後ろ姿を、追い抜かないように気をつける。時々、振り向いてはついてきているかを確かめているのが可笑しかった。
わざわざ連れてくるのが厨房か、と僕は思わず苦笑してしまう。いや、そもそも「いる」と思ってしまう僕自身に笑ってしまった。
甘いりんごの匂いと、焼き菓子の匂い。以前見た気がすると思ったこの妖精、アーサーを気に入っていたのは背格好や雰囲気がよく似た青い妖精だったか。ぺちぺちと小さな手で重たそうな扉を叩いている。
彼女が一人でいるのか、誰かと一緒に作業をしているのかは分からない。それでもきっといる、そう思ってドアを叩く。
( 帰 り た い 場 所 )
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千歳の誓い
Place where it wants to return.
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