フェアリ*ティル | ナノ


Small talk ; 小話


" Hold me little tighter. "


考えすぎて頭がいっぱいになっている時はひたすら手を動かす。洗濯や掃除も終わった後は、厨房でお菓子作りに取り掛かっていた。皆が大好きなブリテンクッキーを作る傍ら、余った生地でタルトの台を作る。一緒にまとめてオーブンに入れて焼いている内に、中のフィリングを作ろうと、幾つか置いておいたりんごに手を伸ばした。…伸ばそうと、した。


「…あれ?チアリー?」


小さな体でどうやってテーブルの上に上がったのかは分からない。天真爛漫ににぱっと笑うのは可愛らしいけれど、よく見る青いチアリーとはまた別の子らしかった。その子は赤い髪を耳の上の辺りでツインテールにして、赤いビキニ、硬質な赤い羽根と赤い妖精のようだった。同じ赤いりんごが気に入ったのか、それを撫でてニコニコとしている。


「…それ、欲しいの?チアリーみたいにお腹空いてる?」
「〜♪〜♪」
「どうせコンポートにするつもりだったからね。今から食べられるようにするから、大人しくしてて?」


エレナは今はいない。よく一緒にいてくれるけど、だからといって四六時中いるというわけではない。彼女と同じように、このチアリーにも言葉は通じるのだろうか。りんごを嬉しそうに撫で付けて、私に渡してくれた。受け取った後、まずはテーブルからその子をテーブルから下ろし、手近な椅子に座らせた。行儀が悪いからね、と言い含めてみたけれどこれも通じるのかは分からない。でも、こくこくと物分り良くしていてくれた。


「忘れてた。私はティタだよ。あなたもチアリーでいいのかな?」
「ー!〜♪」
「…うーん、通じるような、通じてないような」


足と手をばたつかせて、楽しそうに待っている。手早く皮を剥いて、食べられそうな分だけを小さく食べやすいように切ってから小皿に盛る。それを渡すと、手でがっと掴んで食べ始めた。フォークを忘れていた、と思ったけど時既に遅し、である。床に落としこそしなかったけれど、鼻歌交じりでんぐんぐと咀嚼しては飲み込んで、上機嫌だった。

その間に、残ったりんごを薄くスライスして用意しておいた鍋に放り込む。バターや砂糖なども入れて、火にかけてからまたチアリーに向き直る。あっという間に食べ終えたらしく、器を差し出してくれていた。それを受け取り、布巾で口元と手を拭っていく。目線を合わせるためにしゃがみ込むと、またニコニコと機嫌よさそうにチアリーは笑っていた。

そして、私の頭に手を伸ばして、撫でる仕草をしている。


「なぁに、チアリー?慰めてくれてるの?」


そんな言葉が出たことに私自身が驚いた。何だろう、数日前から心にもやもやしたものがある。クランブルの生地も作らないと、と思いながらもチアリーを抱きしめる。これじゃだめだと呟くと、チアリーもぎゅっと抱きしめ返してくれた。


―そういうことをしたいのは、してほしいのは。


そう考えかけて、頭を振る。何を考えてるんだか、と自分で言いかけて少し顔が熱い。マーリンのおじいちゃんのことがあるとは言え、それを除けば今は特に何があるというわけではない、平和そのものだった。だから多分余計なことを考えてしまうのだ、とそう思い直す。ぴたぴたとチアリーの小さな手が私の頬に触れた。


「…審判役って言うのも大変みたい…」


外敵の事も少し落ち着きを見せているのは良かったけれど、今度は王様アーサー達でのいざこざが頻発し始めている。近隣の王達の街の様子を見てきて欲しいと言う事で、ここ二日ほどは出かけているのだった。コンスタンティンに会いに来てくれた時少し慌ただしくしていたのは、その所為だったのかもしれない。

不意にパッと顔を上げたチアリーは、口をパクパクとさせて自分の鼻をつまんでいる。そこで私も立ち上がる。弱火で煮ていたとはいえ、ほのかに焦げ臭い。慌てて火を止めて鍋を確かめると、底が少し焦げた程度で済んだようだ。


「助かったよ。ありがとね、チアリー…あれ?」


振り返ってみると、そこの椅子でちんまり座っていたはずのチアリーがいない。忽然と消えてしまったようだ。しばらくあの子がいた椅子を見つめていたら、遠慮がちなノックの音と一緒に、扉が開いた。



( ぎ ゅ っ と 抱 き し め て )
title / ACHE



Hold me little tighter.


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