「おにーちゃん、ラーンスロット、フェイも、ちょっと休憩しようよ。お茶淹れてきたから」
「ん、ああ。ありがとうな」
「ふむ、ではテーブル回りを片付けるから、ちょっと待ってくれるか?」
「ティタ、私も手伝いますね」
「ありがとー、フェイ」
王と主従の二人は剣の手入れをしていたらしく、使っていた道具を手分けして片付け始めた。がちゃがちゃと硬い金属音をBGMにしながら、近くのサイドテーブルにお茶とお菓子と軽食を乗せた盆を置いて布巾でテーブルを拭く。
「―で、ティタ、どうしたんだ?」
「えっ?なに、お兄ちゃん」
「わざわざ来るんだから、何かあるのかと思ってさ」
ばさぁっとテーブルクロスを広げて敷いた後、カップとソーサーをフェイに任せてタルトを切り分けていたところだった。四等分に切り分けてから振り向くと、ラーンスロットが椅子を整えているのが視界に入った。
「ティタが手の込んだものを作るときって大抵そうだろ?」
「ベイクウェルタルトなんて久しぶりだな」
「ラーンスロットも何でそこで笑うかな?お茶淹れるから座って!ね!」
そこまで手の込んだものじゃないですーと反論しながら急いでタルトをお皿に乗せていくと、フェイがにっこりとほほ笑んでテーブルに運んでくれた。ラーンスロットもサンドイッチのお皿をお盆に乗せて持って行ってくれた。それが妙に様になっていたので、彼なら騎士だけでなく別の仕事もできそうな気がする。「俺が淹れるよ」と兄はポットに被せていたティーコジーを外してポットを持って行ってしまった。
「もー…お兄ちゃんなんでわかるの」
「これでもお前のお兄ちゃんだからなー」
カトラリーも添えているのに、いつもと変わらず―家にいた頃のようにタルトを手づかみでぱくりと頬張っている。
「話し難いなら、無理しなくてもいいと思うがね」
うん、うまい。と言いながら、ラーンスロットも優雅にお茶を味わってくれているようだった。私は自分のカップを手に、フェイの隣の空いていた椅子に座る。
「…うん、聞いてほしくて来たんだ。ありがとう、皆。そのね、最近私の友達が元気ないみたいで」
「へぇ?誰だ?」
「綺麗なブルネットの子!すっごく美人なんだよー」
「ほう、私たちはどちらかと言うと一般的な髪色だから、珍しいな」
「それを言うと、私たち妖精などはもっと珍しい部類に入っちゃいますけど」
穏やかな空気の中、会う度にモードレッドの笑顔が曇っていくのが私の脳裏に浮かぶ。それがどうしてかは分からない。聞いても「大丈夫だよ」とそれしか言ってくれないのだ。知り合って間も無いわけだし、そんな自分に悩みを打ち明けろなんて言うのも、おこがましいのは重々承知している。
ここでため息をついていても仕方ない。ふと隣を見ると、コクコクとカップを傾けている姿が愛らしくて、ほんのり和んでしまった。
「フェイの食べっぷりはなんだか可愛いねー」
「…ティタ、話を変えたな」
「うーん、ラーンスロットはたまーに意地悪?」
「そんなつもりはないが…なぁ、アーサー」
「俺にも意地悪だしな?ラーンスロットって」
「おっと、…そう来るか」
「ふふふっ、私をからかうからそう言う事になるんですー」
「あらあら、ラーンスロット様が負けそうですね」
降参だ、と言いながら困ったような顔をしているラーンスロットに、兄は可笑しそうに肩を震わせていた。出会って間もない頃は、あの子もはにかむようにしながらだったけど、屈託なく笑ってくれていたのに。テーブルの下で握ってしまっている、手が痛い。
「(ブルネットって、まさか…でもティタは男とは言ってないし)」
「(もう少し様子を見る他なさそうだな?)」
お茶の後、こんな風に兄たちが言っていたことなんて、もちろん私は知る由も無い。
A tired smile tightens me.
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