Small talk ; 小話
"This is an ideal day for washing."
「良い天気だね、ガレス」
「うん、ティタ!気持ち良いね、洗濯物の干し甲斐があるよ」
ブリテン統一がなされて、今は事実上キャメロットがこの国ブリテンを統率していた。今一緒に洗濯カゴを抱えて出てきた女の子は、のほほんとしながら空を見上げている。
彼女はただの女の子だ。数多くいるアーサー王の中の、王様の一人が兄にいると言うだけ。
縁とは不思議なもので、アーサーが王様になろうと思ってこのキャメロットへきて、エクスカリバーを抜くことが出来て、王様の中の一人とならなければ出会うことすらなかった。それを考えると、一緒に家事をしているなんて、ものすごくすごい事なのではないだろうか。
そんなことを考えながら手早く形を整えて、一枚一枚物干し竿へと掛けていく。手慣れたもので、二人掛かりだとあっという間だ。空っぽになったカゴを抱えると、二人して近くの木陰へと移動する。小さな簡易ベンチもあったので、少しそこで休憩することにした。
季節も少しずつ移り変わって、だいぶ日差しも強くなってきた。ティタは、カゴを抱きかかえるようにして、吸い込まれそうなほどに青い空を、ほけーっと眺めている。よくよく空を眺めているのは、どうしてだろう。
「どしたのティタ。考え事?」
「んー?そうだねぇ…」
「恋煩い?」
「えー…どうだろ………恋わずら…えっ?!何のひっかけ?!」
あ、カゴが潰れそう。私はそんなことを思いながら、ニコニコとティタの横顔を眺めていた。
他の派閥は仲が恋愛が云々とかそうした話は聞かない。
でも、私たちより後に造られた騎士達の中には、戦うことを捨て、人と生きることを選んだ者もいる。それが上手くいくのかはわからないし、戦いが始まればやはり呼び戻されている騎士も少なくない。
アーサーは私たちに言う。
それは、王様らしからぬ言葉を、何度も何度も。
生きろと。
道具じゃないと。
泣きたくなるほど、力強く。
私自身も尊敬する、当代随一の騎士と謳われるラーンスロットを振り回すなんて、そうそう出来ることではない。そばで戦っていたからこそ、私も彼と同じ、向けられた言葉を何度も何度も聞いて、その度に戸惑うぐらいなのだから。
「(でも、だからこそ、私はモー君やラーンスロットの味方をするんだよ)」
ティタが誰を選ぶのかはわからない。そもそも、彼女自身がそうした想いを抱いているのかどうか。横で「今日はグィネヴィアがお茶を…」なんてぶつぶつと呟いている。察するに、あの我がままお姫様もとい、湖の管理者が何かまたティタに催促をしていることは、容易に推察できた。
カゴの中に手を突っ込んで「うー」と唸るティタを見守りながら、視界の端に歩いてくる人影があった。珍しくアーサーまでもが何かカゴを抱えている。
「洗濯、お疲れさん。な、今日の夜は星を見るぞ!」
「えっ!?何お兄ちゃんいきなり」
「そうだよ、アーサー。今晩晴れってわかんないじゃない」
「ティタもガレスもそう言うなよー。オリオンが晴れるって言ったんだから大丈夫だって」
ちらっとカゴの中身を見ると、ジャガイモだらけだった。あれで何をするつもりだろう。怪訝そうな私の視線に気づいたアーサーは照れ笑いを浮かべて口を開いた。
「今からラーンスロットとかモードレッドもつれて料理するから。今日は遊ぶぞー」
「…えっ、嘘、アーサー料理できるの…?」
「「それはできるよ」」
私の疑問に、何故かそこで兄妹二人して声が揃った。二人曰く、親がいなかったこともあって料理自体はどちらも出来るらしい。いつもティタばかりがあれこれと料理を作っているので、アーサーは出来ないものだとばかり思っていた。ジャガイモを一つ掴んで、大きいよな、と嬉しそうにしている。
「まっ、でも俺の場合は、大雑把だけどさ」
「なんとなく想像つく。へー、面白そう」
「でもあの二人がよく料理する気になったね?」
「任せろ。伝家の宝刀抜いた」
「あはっ、お兄ちゃんずるーい…!」
カゴを落としそうな勢いで笑い出したティタに、私も釣られてしまった。きっと渋々ながら従うあの二人の様子が目に浮かぶ。アーサーの伝家の宝刀なんて大したものじゃない。小さな子供の「一生のお願い」と大差ないのだ。けれどもそれは、人によっては本当に効く。
また後でと、私たちのカゴを重ねてそれも持って行ってしまった。しばらく私はその背を眺めた。ティタも小さく手を振って見送っていたけれど、また、空を見上げている。そーっと手を伸ばして、ティタの頬をつついてみた。
「な、なにー?ガレスー?」
「んー?なんでもありませんよー?あはは」
午後は何をしようか、と話を変えた。一度ぐらいは様子を見にいきたい、と言うのは一致した。絶対面白いことになっているだろう。
二人で見上げた空に浮かぶ、大きな真っ白な雲。手を伸ばせば、届きそうなぐらいだった。
This is an ideal day for washing.
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