剣を抜く事ができたものの、兄より先に剣を抜いた人は数多くいるらしいと言う事実に、私は驚くしかなかった。
兄自身も抜いた後にその話を聞かされて驚いていたというぐらいだ。内心怪しいとは思ったけれど、それは今ここでいう事ではない。何を言うでもなく、表情も変えないように気をつけながら、兄の後ろにいた二人になるべく丁寧に頭を下げた。
「ティタ、この子が妖精のフェイで、こちらの騎士がラーンスロットだ」
「こんにちわ、妹のティタです。フェイさん、ラーンスロットさん、よろしくお願いします。あの、ほんとにお兄ちゃんは剣を抜いちゃったんです…よね?」
こくりと妖精さんに可愛らしく頷かれて、私は間違いないことなのだな、とくらりと足元がふらつきそうになった。たとえたたき売りのような状態だったとしても、剣を抜いてしまった以上、「王」である事には違いない。ラーンスロットさんがさっと腕で体を支えてくれたけれど、どうやら夢にはしてくれないらしい。
「す、すいません…!」
「いや、構わないよ。事実として、王は剣を抜いた。だから私はこの方を主としてお仕えする。ティタ、私こそよろしくな」
一見すると穏やかな笑みを湛えている、優しげな青年にしか見えない。大きな手で頭を撫でられると、その手袋越しでもゴツゴツとした武骨な手だというのが分かる。騎士だと言ったのだから当然なのかもしれないが、この人も兄と同じく、剣を手にして戦う人なのだ。それを思うと、胸が痛くなる。
「ティタ様…?どうかなさいましたか?」
「えっ?ううん、あ、あの、フェイさん、別に私は一般人だし様なんてつけなくていいよ」
「アーサー様の妹君なのですから、それでいいのです。私こそ呼び捨てて下さって構いません」
可愛らしい雰囲気とは裏腹に思いの外強情な面もあるらしい。助けを求めるように兄を見ると肩を竦めたが、しばらくして口を開いた。
「じゃあ、ティタもフェイも互いに敬称なしで呼びあえば良い。それでいいか?」
「私はいいけど…ってそもそも私、ここに、お城にいてもいいの?」
「ああ。それは大丈夫だ。話はつけてある」
いつもと同じ調子で言い放つ兄だったけれど、どこでそんな話をしてきたのだろうと考えても私に分かるはずもない。目が合ったラーンスロットさんは何か思い出したかのように、小さく笑っていた。
「ああ、私もさんなど付けずに呼んでくれて構わないから」
「…は、はい!?ラ、ラーンスロットさ…じゃなくて、ラーンスロット」
「ははは、ありがとうティタ」
「おい、ラーンスロット。妹をあまりからかうなよ」
この二人もごく自然に昔からの知り合いだったかのように話をしていた。こちらです、とフェイが私を呼んだ。部屋を案内してくれるらしい。歩き始めた彼女を急いで追いかけながら、騎士ってこんなにフランクな存在だったのだろうかと、思い出して私も笑ってしまった。
( そ れ は 誰 か の 悲 劇 が も た ら し た 素 敵 な 魔 法 )
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雲の空耳と独り言+α
It is wonderful magic that someone's tragedy brings.
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