フェアリ*ティル | ナノ


Small talk ; 小話


"Love is a flower."



さらさらと亜麻色の長い髪を少しずつ手に取り、僕は丁寧に梳いていた。



天気が良かったので、陽気につられて外を散歩していたら、「モードレッド、こっち」と女性騎士たちに声を掛けられた。正確には捕獲されたとでも表現すべきか。

その中にはティタも一緒にいたので、何か作為的なものを感じてならなかったけれど、彼女の手前あえて追求はしない事にした。

ちょこんと丸椅子に座っていたティタの髪を梳いてやってくれと、ユーニアがブラシを差し出す。女の子同士の中に入っても邪魔だろうと固辞したものの、こうした時の女性の力には到底敵わず、これも使えと突き出された櫛までも手渡されて今に至る。


「それにしても、かなり伸ばしてるんだね、ティタ」
「うーん、気がついたらこんなに伸びてたんだよね」


切るタイミングも逃しちゃって、と小さく唸っている様子が伺える。いつも彼女は髪を纏めているから、こうして下ろしているのを見るのは新鮮だった。


*


ティタをモードレッドに任せた後は、少し離れたところでフランシースの長い髪を巻いたりお団子にしてみたりとアレンジを考えているところだった。


「なぁんかつい見かけたから引っ張ってきちゃったけど、モードレッド君幸せそうだねぇ」
「いいよねぇいいよねぇ、羨ましいなぁ。なんか見てて微笑ましいわ。ユーニア、私もあんな彼氏欲しい」


そう手をばたつかせて喜ぶフランシースに頷き返す。その仲睦まじい姿は、傍から見ていると羨ましいを通り越してもう恥ずかしくて見ていられないほどだ。


本人たちに自覚はない。特にティタが何にも考えていなさすぎるのは少し気の毒にもなる。


「あの兄妹は基本的に人好きだからねー」
「多分恋とか愛とか友情とかそういうの全部一緒くたな気がするよね」


ティタは騎士ではないけれど、数多くいる王の一人であるお兄さんの手伝いやら何やらと忙しくしている。初めは、メイクアップアーティストとしてティタの髪型を変えて、たまには気分転換でもしてもらおうと思っていた。のほほんと洗濯物を干していたところをとっ捕まえて一緒に手伝った後、引きずるように外に出てきたのだ。


「でも、意外とティタ本人はストレス溜まってなさそうだよ…?」
「あの子も世話好きだしなぁ。むしろモードレッド君の方が癒されてる感じがする」


あの幸せそうな顔ったら!とフランシースがぱたぱた手を叩いて微笑んでいる。
彼の手つきを見ていると、彼は中々手慣れたものでユーニア自身も安心して見ていられた。


*


ティタの髪を纏めているリボンを受け取り、さてどうしようかと考える。突如くるりとこちらを振り向いて、真っ正面から空色の瞳に見据えられた。長い髪を下ろしていていつもと雰囲気が違うので、若干気恥ずかしくなったけど何とか目を逸らさずにいられた。

暖かな風が吹いて、ティタの髪がふんわりと揺れる。少しの間見とれていたのか、声をかけられても気がつかなかった。


「ふふふ、モードレッドとても機嫌がいいのね、今日」
「そう?天気がいいからかな」


本当の理由は別のところにあるけれど、口に出せるはずもない。そんな風にごまかして曖昧に笑う。

少し離れていたところにいたフランシースとユーニアも楽しそうな笑顔を浮かべている。この二人に会話を振ると話が変な方向にいきそうだったので、僕は一先ずリボンをくるりと自分の指先に絡めた。


「どうしようか、いつもと同じように結うなら僕にも出来るけど」


片手にブラシを持った僕の問いにティタは一度ユーニアに視線を向け、口元に手を当てて少し考えた後、また僕を見つめた。


「うーん、それじゃあね、モードレッドはどうして欲しい?」


聞き返されるとは思っていなかった。ユーニアが横で綺麗な髪だから飾り甲斐があると主張している。でも僕に聞かれたのだし、と口が動いていた。



「なら、もう少しこのままで…いてほしい」



可愛いから、と口はかすかに動いたけれど、そこは声に出なかったらしい。ただ顔が熱くなってきたとそれだけは自覚できた。実際どんな顔をして言えたかは僕にはわからない。でも、ティタは「じゃあ、そうする」と素直に嬉しそうな笑顔を浮かべてくれていた。



「そうと決まったら善は急げだよ!ティタ、今日は一日時間あるんだよね?」
「へっ?う、うん。大丈夫だよ、ユーニア」
「よぉっし!フランシース!今から服を選んで着せてくるから、モードレッドをそこに引き止めておいてね!」
「了解っ!いってらっしゃいユーニアー!」
「…えっ?何だって?」


ユーニアががっしりとティタの腕を掴んで有無を言わさずに走り去った。その力強さと早さはさすが騎士の端くれとでも言うべきなのか、感嘆を覚えた。

全く、こう言う時の女性の力には本当に敵わないとほとほと思わされる。先ほどまで、ティタが座っていた小さな丸椅子に視線を向けた。


「でも、ありがとう、その、フランシース」
「いえいえ、どーういたしまして!うふふ、楽しいな」
「まぁ、君達が僕を玩具にする気満々だったのは、捕まった時点でわかっていたけれどね」


ばれた?と舌を出しているフランシースに、黙って首を縦に振る。先程ティタが座っていた場所をフランシースに手で示して座るよう促し、僕は立って待つ事にした。


「私とで悪いけれど、もう少し待っててね!モードレット」
「淑女をエスコートするのも、騎士の役目だよ」
「あははっ!何言ってるのー。そういうのはちゃんとティタに言いなさいよね」
「…言えたら、ね」
「言ったところで、あの子は気づかなさそうだけどね」
「良いんだよ、それで」


一人でも玩具にされることには間違いなかったらしく、ついつい苦笑してしまった。自分の手のひらを開いて、ゆっくりと握る。気づいてもらう事は考えていない。


「(そばにいられたら、いいんだ)」


それ以上は、多分望んではいけないと思うから。




( 愛 と は 花 で あ る )
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Love is a flower.


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