Please teach the meaning of the words.
教えて下さい、その意味を。
初老の魔法使いや円卓の管理者である姫、多数いる他の王と騎士との会合が終わると、一人、また一人と誰ともなくその場を去っていく。最後の一人までその姿を目で見送った後、広い室内は先程のざわめきが嘘であるかのようにがらんとしていた。
「一時の正義感、か」
しばらく奥の玉座を眺めていたけれど、気分を払拭するように近くの森へと歩き出していた。冷ややかな視線で射抜く老人の目が思い出す。フェイの報告を聞いた時点でサフォークの防衛にはなんとしてでも行くつもりだったし、その意思は今も変わらない。
ついて来ていたラーンスロットは、後ろで押し黙って聞いているだけだったが、これまでの経緯から俺の取る行動なんてだいたい想像がついていることだろう。
空には太陽が高く上り、容赦なく照りつけていて木々の葉からこぼれる光が眩しい。鳥の声が、森閑とした木々の遥か遠くで幾重にも重ねて歌っている。
「モードレッドの事といい、今回のことだっていい、…マーリンは」
けれども、「国を守る」と言う観点からすれば、その意見は至極妥当とも言えた。人として大事なことと、施政者として大事なことは似て非なるものだと、そういう事なのだろうか。
大きなうろのある木を見つけたので、そこに座り込む。鳥のさえずりを聞きながらしばらく考えに耽っていると、ひたひたと足音が聞こえて来た。注意深くそちらを見ていたら、妹のティタがひょいと出てきたので、声をかけるとこちらへ駆け出してきた。
途中で草木に引っかかりそうになっていたので、苦笑しながら近づいて木の枝などを払ってやった。
「ティタ、お前一人で来たのか?」
「うん、フェイに大体の場所聞いてね」
「そか。まあ、帰りは一緒に帰るぞ」
すぐ横の木の幹にもたれるようにして座ったティタは、こくりと大人しく頷いた。昔、もっともっと小さかった頃はよくこうして妹や友人たちと出かけていたけれど、最近はそんなことはなかったな、と思う。
「お兄ちゃん、悩んでたりする?」
「いーや?迷うところなんて何もないだろ」
「…やっぱりそうだよねぇ」
妹の頭をわしわしと撫でると、小さな子供のように嬉しそうにしていた。あの会合の場所にいたのかとティタに訊ねると、一も二もなく頷いた。あの場には他の王たちもたくさんいたのだし、一人や二人誰か紛れ込んでいたとしても早々気がつかないのかもしれない。話を聞いていると、人に誘われてきたらしいが、誰に誘われたかは内緒らしかった。
「ま、そこはいいか。よし。お前も来るよな、サフォークの街」
「うん!…っ?えっ?私?行ってどうするの?」
「いや、勝手についてきそうな気がしたからな。それなら最初から目の届くところにいてくれた方がいい」
「うっ、…そ、そうかも」
「そうだろ?」
もっと幼かったあの頃は外敵だとかそんな言葉は知らなかったけれど、今は違う。自分たちが生まれる前から彼らの存在はあった。どんな意思で彼ら外敵がこの国へと攻め入るのかは想像するしか出来ないが、最初から剣を取る道しかなかったのだろうかと暗たんたる思いが過る。
「俺の我が儘だとは思うけど、あんな光景できれば二度と見たくない。見たくない、なんて言って見なくて済むなんてことはないんだけどさ」
「…そうだね、お兄ちゃん」
吹き飛ばされて、燃え盛る家屋。逃げ惑う人々に、兄妹二人を守り庇うように覆い被さる両親の姿。あの悲惨な光景は今でも脳裏にまざまざと蘇る。幼い子供二人で手を引いて必死で歩いてどこかの街に辿り着いて―今となってはどうして生きていられたのだろうかと不思議になるぐらいだ。
「ま、時代柄ありふれた光景でもあるんだろうけどな。だからと言ってサフォークを助けない理由にはならない。他の王が行かないなら、俺が行く」
珍しく視線を落としたティタの頭を今度は優しく撫でる。誰になんと言われようとも、妹を始めとした自分が守りたいものは、何であるかを忘れてはいけない。そこでゆっくりと視線を木々の奥に―ティタがやって来た道に向けて、声をかけた。
「ラーンスロット、そこ、いるんだろ?」
俺の言葉に、ティタが勢いよくばっと顔を上げた。辺りを見渡して探したものの、見つからずに首を傾げているティタを横目に見やる。俺たち二人の前に、音もなく白銀の鎧をまとう騎士が現れた。
「さすが、分かるか」
「ティタは一人で来たって言うけど、やっぱりなぁ」
「ら、ラーンスロット、私、全然気がつかなかったよ?」
「そりゃお前、現役の騎士が女の子に気配悟られたら面目立たないって」
「アーサーの言う通りだ。…それに何より、君に何かあったらなんて考えたくもないからね」
さらりと言ってのけるラーンスロットを軽く睨むと、飄々とした風情でこちらへとやってきた。
それにしてもラーンスロットもフェイも、ティタには甘いみたいでちょっと可笑しかった。それは自分も同じだから人のことは言えないか、と呟く。足元に落ちる木漏れ日が、きらきらと輝いていた。
「アーサー、ティタよ、さあ…行こうか。サフォークへ」
「ああ、行こう」
自分の傍らに立ってくれている騎士と妹の顔を見て頷く。
自分の願いなど、ほんの些細なことだ。
この穏やかな緑の景色を、そしてそこにいる人たちを少しでも多く守りたい。
剣を取って王になりたいと願うには、俺にはそれで十分だった。
( 起 伏 の 激 し い 感 情 論 )
title /
人魚
Feelings theory with intense ups and downs.
prev - next
top