Small talk ; 小話
"What is your justice?"
兄の部屋の掃除をしている傍ら、ぱちりぱちりと音がする。戸棚などの拭き掃除をしていたのだけれども、後もう少しで終わるところだったから手早く済ませて、私はそちらの方へと近づいていった。
窓際にある小さなカウンターテーブルにお兄ちゃんとモードレッドが顔を突き合わせている。あまりに真剣な表情だったので、また何かあったのだろうかと思っていたら、手元には盤上遊戯があるのが見えた。駒の形からして、どうやらチェスで遊んでいたらしい。
「わ、ゲームしてるのって、珍しいね」
「ああ、ティタか。ありがとな、掃除」
「ううん、いいよー。今日の分は終わり!」
「…本当にしてるとは思わなかったよ」
「ふふふっ、モードレッドの部屋も掃除してみたいなぁ!」
「…いいよ、恥ずかしいし」
「なんだお前、何か隠してたりするのか?」
お兄ちゃんの言葉に、そんなわけないだろう、ふいとそっぽを向いてしまったモードレッドを見て、私はついつい可愛いと思ってしまった。当人は本気で恥ずかしいのか、手でほんのり染まった頬を隠そうとしている。
ただ掃除するだけなのにと思うのだけれども、やはりいろいろとあるのだろう。何があるのかは、私には皆目見当がつかなかったけれど。
どちらが強いのかな、と少し戦況を見ていたら意外に実力は均衡しているらしかった。白い駒も黒い駒も半分ずつ減っている。じっと盤上を眺めていても、それほどチェスには詳しくないので駒がどういう風に動くのかも分からない。
天気が良いからか、窓から入る柔らかな光が二人の駒に当たってきらきらと光っていた。集中しているのか、それとも次の手が難しいのか、私が来てからなかなか駒が動かない。
これでは見ていても埒が明かないかな、と邪魔をしないように、二人に「お茶入れてくるね」と声をかけて私は一度部屋を出ることにした。
「あ、行っちゃったぞ、モードレッド。良かったな」
「何がだ、アーサー」
「ティタの話してたところだったからなぁ?」
「〜〜!ほら、チェックメイトだ!どうする!」
「へっ?あ、しまった」
部屋から出た後に、少し騒いでいるらしい二人の声が聴こえて、たまにはこんな日も良いなと頬が緩んでしまう私だった。
( 君 の 正 義 っ て 、 何 ? )
title /
ACHE
What is your justice?
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